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学祭騒動再び~最終日・嗚咽~⑧
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「むー……」
朝から再び……やって、しまった。
このおかしなパジャマのせいでーっ!結局このパジャマもドロドロになっちゃったじゃん!もー!
ぐしゃぐしゃに握り潰したもこもこパジャマの”説明書”を開いてみると、
・両胸中央部スナップ付き
・尻中央部穴あり 着衣のまま挿入可能
・付属品の尾 持ち手部分20センチまで伸長可能及び3段階振動付き
・ボトムス前部分は強く引くと楽に破れる生地を使用 使用後修繕受付可
……などと、書いてある。
「バカなのっ?!」
何てもんを作ってんだよ!サクラ!
っつか、しっぽの持ち手部分が伸長可能で、三段階の振動付きって何?
顔をしかめていると、さっき取り合いをした付属品のしっぽを持ち上げた皇が『よう考えつくものだ』と、口端を上げて、ギュッとしっぽを握った。
しっぽから、にょきっと何かが飛び出してきて、おかしな電子音をさせながらうねうねと動き始めた。
「えっ?!」
何、それ。
……何、それーっ?!
どう見ても……あやしいヤツ、だよね?それを短パンの穴に装着してどうしろっていうんだよ!ちょっと!ホント何してくれてんの?!サクラー!
「たとえこのようなからくりであっても、余以外受け入れてはならぬ。そなたが喜ぶのであれば、不本意ではあるが、許可しなくもないがな」
皇は口端を上げて、オレにキスした。
なっ!お前も何言ってんだよーっ!恥ずっ!
「そうだっ!お前、この前の祝日に学校で会った日!サクラと昨日の打ち合わせしに来てたんだろ?!」
「あ?……ああ、何だ、今更その話か?」
「だって!」
サクラの顔を思い出したら、それも思い出したんだもん!
「っつか、何が譲れない用事があるだよ!知ってたくせに、気の済むまで礼をしてくるがいいとか言っちゃってさ!礼する相手、お前じゃん!」
「嘘は言うておらぬ。藤咲が、そなたに黙っておったほうが喜ぶだろうと言うたゆえ、黙っておった」
「なっ!」
重ね重ね、サクラめー!
「どうだ?喜んだか?」
「……」
嬉しそうに笑う皇の顔に、こっちまで……嬉しくなるだろうがー!
「ん?」
「……喜んだよ!バカ!」
「そうか。……ああ、そこにあるではないか」
「え?」
皇は『そなたの制服だ。下着も共に置いてあったはず』と言いながら、上の棚からオレの制服をおろしてくれた。
「あ!良かった!ありがと」
「ああ」
オレの頭をポンッと撫でた皇は、軽くオレにキスをして、オレのお尻に手を伸ばした。
「ちょおおおおっ!」
まだそんなことする気か?!
「ははっ……冗談だ。風呂に入るか」
「……ん」
「ん?今日は共に入らぬと申さぬのか?」
「どうせ駄目って言ったって一緒に入るんだろ!もうあきらめた」
「そうか。余の粘り勝ちだな」
何だよ、それ。オレは負けず嫌いなんだよ!でも……そんな嬉しそうに言われちゃったら……負けても全然悔しくないじゃん!バカ。
皇と一緒にお風呂に入りながら、色んな話をした。
昨日、オレには誓様とは別の忍びの人がついていてくれたって話とか、その忍びさんから、オレが倒れたって連絡が入った時、皇は本丸にいたって話とか、その時一番早く学校まで来られるだろうヘリコプターで学校まで来たって話とか。
駒様は過労で倒れて、本当は入院の必要はないけど、そうでもしないと休まないからと、母様が無理矢理入院させたって話はすでに聞いていたけど、そのために未だに本丸はバッタバタだって話とか。
ちょっとだけ、衣織の話、とか……。
学祭の話をしていたら、急に立ち上がった皇が携帯電話を持って来て、夕べオレが寝ている間にダウンロードしたっていう、オレが踊っているムービーを見始めて、ここがいいとか、どうしてここで笑ったんだとか、そんな話をしたりとか。
だからオレも携帯電話を持ってきて、後夜祭でやったイルミネーションと3Dプロジェクションマッピングのムービーを見せたりした。
謝恩会での話をしている時、浴槽の端のほうに置いてあった皇の携帯電話が鳴って、画面を見た皇が顔をしかめた。
「……誰から?」
『大老だ』と返事をした皇が、大きくため息を吐いた。
「急用じゃないの?」
出ようとしない皇にそう言うと、皇はおもむろにオレを膝に乗せた。
「どぅえっ!」
「騒ぐでない」
オレの首筋にキスをした皇が、電話を取った。
大老様に変な声を聞かせたらいけない!
オレは急いで口を手で塞いだ。
『何だ?』と、相変わらずな感じで電話に出た皇は『ああ』『それが何だ?』『致し方あるまい』『緊急だ』『説明の必要はない』と、ずっと不機嫌そうに話している。
大老様が何て言ってるかまでは聞こえないけど、皇にとって楽しい話じゃないことだけは、口調からしてわかる。
そのうち『何っ?!無理だ!』と、皇が大声を上げた。
ビクッと体を震わせると、オレをなだめるように、皇はオレの腕を撫でた。
どうしたんだろう?大老様に何を言われたんだろう?今日の朝ご飯、帰らなくていいって言ってたけど、本当は駄目だった、とか……。
皇とオレが一緒にいることで、また誰かに迷惑をかけてるんじゃないかと、そんな心配ばかりが頭に浮かんだ。
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