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急転直下④
今の母様の話を総合的に判断するに、去年オレが年中行事に参加するのを止めていたのは、母様ってことになるんじゃないの?
「あれ?そうだよ?年中行事を仕切ってるのが私ってこと、知らなかったっけ?」
いえ、母様が年中行事を仕切っているのは知ってましたけど!
まさか母様が、オレの年中行事参加を止めていたとは、全然思っていなかったです!
オレが年中行事に参加出来ないのは、オレが候補としてまだまだだからだろうって、思ってた。
だから、オレが候補として、てんで駄目だと思っている誰かが止めてるんだろうって、勝手に思い込んでいたんだ。
なのに……実は母様が、オレのためを思って止めていてくれただなんて……。
オレ……被害妄想も甚だしかったんじゃん!
母様は、自分がデビューの時の練り歩きで、人の気に当たって三日三晩熱を出して寝込んだ経験があるから、正式な候補じゃないなんていう噂が出ていたオレは、どうなっちゃうかわからないと、大層心配してくれていたそうで……。
しかも、母様自身が、年中行事参加なんて面倒だと思っていたから、オレもそうだろうと思っていたんだそうだ。
そんな理由から、おかしな噂がなくなってから、オレを年中行事に参加させようと思っていたのだと話してくれた。
だけど、母様がそんな心配をしてくれていたことも、お館様の正体も知らなかったあの頃のオレは、年中行事に参加することも許されていないなんて、”わんさん”に泣きついたわけで……。
オレが年中行事に参加出来ないことを嘆いていると、お館様から教えられた母様は、すぐに奉納する舞の中でも一番簡単な新嘗祭でのオレのデビューを決めてくれたんだそうだ。
「何か……色々と本当にごめんね?青葉」
母様はもう一度オレに頭を下げたあと『こうして青葉の舞を見ていると、本当に新嘗祭じゃなくて、もっと難しい舞で華々しくデビューさせておけば良かったって悔やまれるよ』と、眉を下げた。
母様はそんな風に言ってくれるけど……オレは、これで良かったって思う。もっと早くデビューすることになってたら多分、全然準備不足だったと思うし。
何より、新嘗祭より前って、皇に対する気持ちもあやふやだったから、鎧鏡家の嫁候補として舞を奉納するんだって気持ちが、全然足りなかったと思う。
「オレ……新嘗祭がデビューで良かったって思います。きっとあの日だから、良かったんだろうって」
その時はつらいって思ってたことも、あとになって考えたら、全部必要なことだったって、鎧鏡家に来て一年経った頃から、そんな風に思うことがたくさんあった。
皇とケンカして、ここを出て行こうって思った日のことも……皇に無理矢理……された日のことも……今では全部、あの日があったから今があるんだって、思えてる。
母様にその話をすると『青葉は強いね』と、頭をポンポンっと撫でてくれた。
そうだ。オレ……皇を守るために強くなるって、決めたんじゃん。
でも……。
さっき大老様に言われた言葉が、頭をかすめた。
オレは……側室にしかなれないの?皇の一番近くで、皇を守れる立場には……なれないの?
皇のそばにいられるギリギリまで、皇のそばにいることを諦めない!とか決心したくせに、すぐに気持ちがぐらついてしまうオレは……全然、弱っちいまんまだ。
「強くなんか……オレ……」
「ん?」
大老様が言ってた、オレには奥方様の器量がないって……どういうことだろう?オレには何がないの?何があったらオレは、皇の奥方様として認めてもらえるの?
「奥方様としての器量って……なんですか?」
「え?」
「さっき、大老様が……」
「あ……本当にあいつは……」
母様は、こぶしを握って小さく舌打ちした。
「いや、あのね?大老が本当に言いたかったのは……青葉が駄目ってことじゃなくて……。うう……もう!本当にあいつはっ!」
母様はガックリ頭を下げたあと、ため息を吐いた。
「大老、色々とおかしなことも言ってたけど、結局一番言いたかったのは、ふっきーで決まったとかいう噂を鵜呑みにして、千代のお嫁さん候補を辞めるとか、言わないで欲しいってことだと思うんだ。千代が青葉をお嫁さんに迎える気がないなら、青葉が住みやすいようにって、色々と配慮したりするわけないし……」
「あ……色々と配慮って、何なんですか?」
オレは奥方教育を受けていないから優遇されてるって、さっき大老様も言ってたけど……オレ、どこが優遇されてるの?全然ピンとこない。
奥方教育を受けていない分、駒様にみっちり絞られたとは思ってたけど……優遇されてることなんてあるの?
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