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5日④
でも、戻れって言われたって……。
だってオレ、ふっきーの代わりにここにいるんじゃないの?そうだとしたら、オレが戻ったら、ふっきーが死んじゃうってことなんじゃないの?そうなったら……皇が……。
そんなの絶対駄目だ!
「とにかくオレ、戻りません!」
「何故だ?」
「だって……オレが戻ったらふっきーが、死ぬってことなんじゃ……」
「ふっきー?」
「あ……オレの、友達で……」
オレは、自分がここに来たいきさつを銀髪の人に話して、オレが戻ることで、ふっきーがここに来ることになるなら、オレは戻らないと話した。
「ああ……それはない。うぬが下界に戻ったとして、他の誰かがサクヤヒメ様の御膝元に召されるということはない」
「へ?!」
「こちらに来るべきタイミングを逃した者は、またこちらに来る順番を下界で待たないとならない。うぬと交代で、こちらに来られるというような簡単なものではないのだ」
「そう……なんですか」
オレの代わりに、ふっきーが死んじゃうってことは、ないんだ。
「気掛かりは解消したか?では戻るぞ」
オレが戻ったとしても、ふっきーは、死なないでいい。オレが戻っても、皇はふっきーを嫁に迎えることが出来る。
「……」
「どうした?」
生き返ったら……オレはいずれ、皇の……嫁候補ではなくなって、柴牧の家に戻ることになる。
柴牧家を継いで、鎧鏡一門の直臣衆に名を連ねることに、なる。
そうしたら……オレはものすごく近い場所で……皇がふっきーを嫁に迎えるのを、祝わなければいけない立場に……なる。
「……」
オレ……二人を祝える?鎧鏡家の直臣衆になって、家臣として、鎧鏡の当主としての皇に、仕えるなんてことが……今更、出来るんだろうか?
「どうした?」
「オレ……やっぱり……戻りたくない、です」
皇が……ふっきーを大事にしている姿を、近くで見ていかなきゃいけないなんて……。
皇とふっきーの間に、珠姫ちゃんが産んだ子供がやって来て……家族になっていくのを……家臣として喜ばしく思うのが当然なんて……オレに……出来る?
オレが戻らなければ、ふっきーはもしかすると、オレが死んだのは自分のせいだと思って、ものすごく心に傷を負ったり……するかもしれない。でも……。
ホントごめん、ふっきー。今、戻って……ふっきーが皇と幸せそうな姿を見ちゃったらオレ……ふっきーのこと……もしかしたら……憎んだり……しちゃうかもしれない。すっごく良くしてくれたふっきーのこと、そんな風に思っちゃうようになるくらいなら……このまま……。
「うぬと交代でこちらに来る者はいない。それが気掛かりだったのではないのか?」
「……」
さっきまでは……オレの代わりにふっきーが死んじゃうと思ってたから、それならオレは戻らない!なんて、カッコイイことを思えてたのに……。
いざ自分もふっきーも死なないでいいってわかったら……やっぱり、戻ったあとの未来が……怖い。
だって……ふっきーを選ぶ皇を……見たくないんだ。
だって……。
どうして、オレじゃ駄目なの……。
オレじゃないのに……どうしてあんなに……オレのこと、大事にしたりしたんだよ!
皇なんて……ずっとマネキンみたいだったら良かったのに!そうならこんなに……お前のこと……好きになんかならなかったのに!
もうどうにもならないなら……お前のそばにいたくない!
……違う。
オレがいたくないんじゃなくて……いられなくなるんだ。そうじゃん。どれだけ願っても、オレはお前のそばにいることを許されなくなる。お前のそばにいられないなら……戻ったって……。
「何を気に病んでいる?」
「……」
オレは銀髪の人に、好きな人がいると話した。
その人は同性で、でも特殊な家柄の人で、同性と結婚するんだってこと、オレはその人と結婚するかもしれない嫁候補だったこと、だけど……その人は、オレじゃない人を選んだってこと、オレは生き返ったら、その二人が結婚するのを、家臣として、すごく近くで見ていかなきゃいけないこと、それは……オレにとって……どうしようもなく、苦しいことで……だから……それならこのまま……戻りたくないのだという話をした。
話の途中で、銀髪の人は何度も何かを言おうとしていたけど、やっぱり口を塞がれたらしい。
何も言わずに、ただオレの話を聞きながら、銀髪の人の顔は、どんどん険しくなっていった。
オレがもう一度『戻りたくない』と言ったあと、銀髪の人はしばらく黙り込むと、空に浮かんでいる灰色の雲の渦に向かって『駄目だ!』と叫んだ。
すると、雲の中から『ダケン』という声が、辺り一面に響き渡った。
何?今の声……。
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