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5日⑦

……皇? が、オレ、を……見てる。 オレ……戻れたの? さっきまであんなに軽かった体が、ものすごく重くて、そこら中痛い。 目の前の皇は、軽く口を開けたまま固まっている。 ふと視線を下げると、皇の前に、さっきまでわんわん泣いていた小さい皇が、驚いた顔でこちらを見ていた。 え?!皇が二人に見える!オレ、ホントに戻ったの?小さい皇が見えちゃってるけど……。 小さい皇は、頬を涙で濡らして、目が真っ赤だ。さっきまであんなにわんわん泣いてたもんね。 こちらを驚いた顔で見ていた小さい皇は、泣き止んだと思っていたのに、すぐに口をキュッと結んで、今にも泣きそうな顔に戻ってしまった。 どうした?! 『大丈夫だよ』って言って、小さい皇を抱きしめてあげたいのに、上手く声が出せない。 さっきまでシロと普通に会話が出来ていたのに……。 その時、自分の口が、酸素吸入器に覆われていて、体は色んな管に繋がれていることに気が付いた。 体が重いし痛いし、思うように動かせない。 それでも、何とか小さい皇に『大丈夫』って伝えたい。 オレ、そのために戻って来たんだ。 オレのために泣いているならもう、泣かなくていいんだよ?そう言って、抱きしめてあげたいのに……。 布団の中からようやく手を出すと、大きい皇と小さい皇が、同時にハッとした顔をして『雨花!』と、オレの手を握りしめた。 「だ……ぃ、じょ……ぶ」 「ん?」 大きい皇が、酸素吸入器をそっと外してくれた。 「だ、い……じょぶ……泣か、な……い、で……い、よ」 オレが何とかそう言うと、小さい皇は大粒の涙を零して、小さく頷いた。 そうして、ニッコリとオレに笑いかけたあと、スーッと透明になって……とうとう、見えなくなってしまった。 あ!と、思った瞬間、さらにオレの体が痛みを訴えた。 『痛っ』と、声を漏らすと、皇は慌てて、病室の扉に向けて叫んだ。 「誰ぞ!」 すぐに開いた扉の向こうから、いちいさんが顔を出した。 いちいさん! うわぁ……何だかすごく懐かしくて……嬉しい。 「どうなさ……あっ!」 いちいさんは、オレを見たまま目を丸くして、しばらく固まった。 「雨花が目を覚ました!御台殿を呼べ!」 「あっ!はい!かしこまりました!」 慌てて病室を出て行ったいちいさんが、廊下で『雨花様がお目覚めになりました!』と、誰かに話す声が聞こえた。 『えっ?!』という何人かの驚いた声が聞こえてすぐに、開けたままになっていた病室の扉の向こうから、父上と、柴牧の母様、はーちゃんが『青葉!』『あっくん!』と、オレを呼びながら入って来た。 皇が座っている場所とは反対側のベッド脇に来ると、柴牧の母様は『もう!』と、怒ったような顔をしたあと『心配かけて!』と、オレが寝ているベッドに顔を伏せてしまった。 「ご、め……」 母様を、泣かせてしまった。 父上が、母様の背中をさすりながら『良かった』と、小さく呟くと、皇が『此度のこと……誠、すまぬ』と、三人に向かって頭を下げた。 「若様が頭を下げることなんて!」 目を真っ赤にした母様が、皇に向かってそう言うと、皇は『いや』と、すぐに母様の言葉を遮った。 少しの沈黙のあと『余が守ると誓ったに……』と、呟くようにそう言って、オレの手をさらに強く握った。 「若様……」 そこに『意識が戻ったって?!』と、息を切らした母様が入って来た。 「はい!すぐに診てやってください!」 「ああ……」 母様はオレを見て安心したように深呼吸すると『みんな、少し出て貰うよ?』と、優しい口調で皇たちにそう言った。 みんなが出てしまうと、母様はすぐに『痛む?』と、オレに声を掛けた。 小さく頷くと『少し痛み止めを入れるからね?』と、点滴に痛み止めを入れながら『声は出る?』『どこかわかる?』と、いくつか簡単な質問をしたあと、ふと手を止めて、オレの頭をふわりと撫でた。 「おかえり……青葉」 母様の目には、涙が浮かんでいた。 「か……さま」 「よく……戻って来てくれたね」 そう言うと、母様はふいっと後ろを向いて、涙を拭ったようだった。 母様にも、きっとたくさん心配、かけたよね? 「ご、め……な、さ……」 母様は『ごめんごめん!無理して話さなくていいよ』と、慌ててこちらに振り向いた。 落ち着かせるように、もう一度オレの頭を撫でると『とにかくこれからしっかり検査をさせてもらうからね』と、ニッコリ笑いながら、オレの顔を覗き込んだ。 母様の言葉に大きく頷こうとすると、途端に全身に痛みが走った。 その時……何かおかしいかもしれないけど……ああ、本当に戻って来たんだなって、激しい痛みで、生き返ったことを実感した。

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