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5日⑩

「そなたがこちらに戻るのを拒んだ理由は、それか?」 ふっきーの問いに答えずに、怖い顔をした皇がオレにそんなことを聞くから、オレはごまかすことも出来ずに『ふっきーに決まったならオレは……要らないだろうって……思って……』と、しどろもどろに、そんな本当の理由を言ってしまった。 「要らぬだと?!」 皇はさっきより更に怖い顔をしてオレを睨んだあと、椅子にガックリと座り込んで、大きく息を吐いた。 「えっ?大丈夫?!」 具合悪いの?! 「少し待て」 皇は頭を抱えながらそう言うと、もう一度大きく息を吐いた。 具合が悪い感じじゃない。……ガッカリっていうか、呆れてる? そんな理由なら、生き返らなきゃ良かったのに……とか、思われてたら、どうしよう。 そんな心配が頭の中に渦巻いて……早く何か言って欲しいのに、皇は項垂れたまま、こちらを見る様子もない。 ドキドキが激しくなる中、沈黙を破ってくれたのはふっきーだった。 「とにかく、僕で決まってなんかないから!そうだよね!すめ!」 オレも内心必死だけど、ふっきーはふっきーで、何だかものすごく必死な感じが伝わってくる。 「……そうだ」 皇は相変わらず項垂れたまま、そう返事をした。 「えっ?!」 そうだ……って……嫁は、ふっきーで決めたんじゃないってことで、いいの?オレ……まだお前のこと、諦めなくても、いいの? 「ほら!ね?なのに僕は……すめの奥方様候補である雨花ちゃんを……危険にさらして……」 「あれはオレが勝手にしたことで!」 ふっきーがそんな顔をすることじゃないのに! ふっきーは、軽く頭を何度か横に振った。 「とにかく……でもとにかく……雨花ちゃんが助かってくれて、本当に良かった。本当に……」 ふっきーは、今にも零れそうなくらい、目にいっぱい涙をためて『ありがとう』って、頭を下げた。 ふっきー……。 「心配かけて……ごめんね、ふっきー。ホント、ごめん」 ふっきーは何も言わず、ただ何度も大きく頷いてくれた。 ふっきーが、すんっと小さく鼻をすすったところで、病室の扉がノックされた。 「入るよ?」 扉の外から聞こえてきたのは、母様の声だ。 「はい」 皇が返事をするかしないかで、母様が病室に入って来た。 「あれ?来てたの?」 母様がふっきーにそう声を掛けると、ふっきーは大きくお辞儀をして『これで失礼致します。また改めてお見舞いに参ります』と、言って、急いで病室を出て行った。 母様はふっきーの背中を目で追ってから『邪魔しちゃった?』と、皇に声を掛けた。 『いいえ。用は済みました』と、皇が返事をすると『そう?』と、母様は片眉を上げた。 やっぱり母様と皇って、色んなところが似ている。 「さて、血液検査も心配するほどの異常はなかったから、大丈夫そうだよ。それでも、全身打撲で動くのも辛いだろうから、とりあえず……曲輪に帰ろうか?」 「へ?」 動くのも辛いだろうから、このまま入院……じゃなくて、曲輪に帰る? 母様は『医者としてこんなこと言うのもどうかと思うけど、青葉はシロと一緒に寝ていたほうが、ここにいるより早く治りそうだからね』と、笑った。 母様は『なるべく早く移動出来るように準備してくるから。もう少し待ってて』と言って、いそいそと病室を出て行った。 「夜中に移動して、大丈夫なの?」 こんな真夜中じゃなくて、朝のほうがいいんじゃないの? 母様が何だかすごく急いでいるように感じて皇にそう聞くと『警備がな』と、それだけ言って、黙ってしまった。 「警備?」 「そなたは気にせずとも良いことだ」 「気になるよ」 顔をしかめた皇は、オレの顔を見て、大きな溜息を吐いた。 「……しらつき病院は、そなたが入院するには警備が手薄だ。そなたを入院させるにあたり、御台殿がここの警備を強化させた。そのため、警備担当に負担を掛けておる。そなたを早う曲輪に戻し、通常の警備体制に戻したいのであろう」 「負担を掛けてるって……大丈夫なの?」 「いずれそなたの耳にも入るだろうことゆえ、余から話そう」 「え?」 皇は、オレが階段から落ちた直後の話を聞かせてくれた。 オレが階段から落ちた直後、少し遠くからオレたちを見ていた誓様が、救急車を呼んでくれたんだそうだ。 先生たちがオレの落下を知った時には、すでに救急車が学校に到着していて、誰も呼んでいないのにと、先生たちから不思議がられたらしい。 誓様は、学校での候補の警護は、ある一定の距離を保つように指示されているため、オレが階段から落ちたのを助けられなかったと自分を責めて、しらつき病院の警備を休みなく請け負ってくれたという。その結果、おととい過労で倒れて、母様から宿下がりを言い渡されてしまったのだそうだ。

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