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5日⑪

「誓様、大丈夫なの?」 「案ずるな。あれは丈夫に出来ておる。心労と過労が重なったのであろう。しばらく休むようにと、御台殿がきつく命じたゆえ、しばらく養生致すであろう。誓にとって、御台殿の(めい)は絶対ゆえ」 「そっか。あ……ぼたんは?誓様がそんな状態だったら、ぼたんは?」 「ああ……そなたのところの小姓二人が、宿下がりしたと聞いた」 「えっ?!小姓二人って……あげはも?」 「そのようだ」 「え?何で?二人、どうしたの?」 誓様がそんな状態じゃ、ぼたんが宿下がりっていうのはわかるけど、あげははどうして? 「……余の管轄外ゆえ、詳しくはわからぬ」 「管轄外?じゃあ、誰に聞けばわかるの?駒様?」 「駒ではわからぬ」 「誰に聞いたら二人の無事がわかるんだよ?そうだ。結局ぼたんの主って誰なわけ?母様も違うって言ってたし、本当に皇じゃないの?」 「二人共無事だ」 「さっき管轄外だからわからないって言ったじゃん」 「何かあれば、余にも連絡が参る。何の連絡も入ってはおらぬゆえ、二人は無事であろう。気になるのであれば、調べさせる」 「え、じゃあ、調べて欲しい」 「承知した」 誓様も、あげはとぼたんも……オレが階段から落ちたあと、すぐに戻らなかったせいで、大変なことになっていたら、どうしよう。 「案ずるな」 オレの心配を察したかのように、皇がオレの頭をふわりと撫でた。 「でも……あ!他の側仕えさんたちは、大丈夫?」 「みな無事だ。交代でここに来ておったが、今はそなたが戻る準備をするため、曲輪に帰った」 「……」 「ん?」 「オレ……みんなにすごく……心配も、迷惑もかけてたんだ……」 皇は腕を組むと、オレをじっと見下ろして『そうだな』と、冷たく言い放った。 「う……」 オレがひるむと、皇はふっと表情を崩した。 「うつけが。そなたを……大事に思うからこそ、案ずるのだ。家臣の思い、忘れるでない」 そう言って、皇はまたオレの頭を撫でた。 「……うん」 そう返事をすると、皇は小さく頷いて、もう一度オレの頭を撫でた。 「余も……案じた」 「え?」 そこに、ノックと同時に母様が入って来た。 「あ……今度こそ邪魔しちゃった?」 母様にそう言われて、皇はオレから少し離れると『いいえ』と言って、後ろを向いてしまった。 ふっと笑った母様は『さぁ、曲輪に帰ろうか』と、オレの頭を撫でた。 ……やっぱり皇と母様って、血が繋がってないとか嘘なんじゃないの?ってくらい、よく似てる。 曲輪に戻ることが決まったと聞いた父上たちが、病室に戻って来た。 さっきはものすごく心配そうな顔をしていた三人が、今は何だか楽しげだ。オレに異常がなかったのがそんなに嬉しいのかな? そう思っていると、父上が『父上が夢枕に立ち、青葉に心配しないよう伝えて欲しいと言っていた』と、興奮気味にそう言った。 父上が夢枕に?……父上の、父上が?って……。 「おじい様が?!」 心配するなって伝えてくれって……。 オレを助けて、三途の川に沈んでいったあの人の顔が、はっきり頭に浮かんだ。 あの人、やっぱりおじい様だったんだ!おじい様、オレが心配してるだろうからって、父上にそんな伝言をしてくれたなんて……。 オレは父上たちに、昏睡状態でいた間、サクヤヒメ様のお膝元にいて、おじい様に助けてもらってこちらに帰って来られたのだと、ざっくり話した。 オレを助けたがために、おじい様が三途の川に沈んで行ってしまったことも……。 「そうか。それで父上は、青葉に心配するなと言っていたのか」 「おじい様……本当に大丈夫なのかな……」 オレの話を、何も言わずベッド脇で聞いていた皇を無意識に見上げると『そなた、先代の柴牧家殿のために戻って参ったのか?』と言って、オレと重なった視線をふいっと外した。 え?おじい様のために戻った?何それ? オレが口を開く前に、皇は『心配であれば、明日、先代の柴牧家殿について、サクヤヒメ様にお伺いしていただけるよう、占者殿にご依頼する』と、言ってくれた。 「そんなこと出来るの?」 「占者殿であれば可能だ」 「……いいの?」 「ああ」 「ん。……ありがと」 「ああ」 それからすぐにオレは、救急車で曲輪に運ばれることになった。 父上たちは、曲輪に来るか来ないかでもめていたけど、曲輪は基本女人禁制という理由で、三人共曲輪には来ないことに決まった。 病院を出るところまで見送りに来てくれたはーちゃんが、救急車に乗り込む直前のオレの耳元で『あっくん、若様には相当の甘えたなのね。安心した』って、小さく囁いた。 「なっ!」 どこがっ!?嘘!オレ、みんなの前で皇に甘えたりなんかしてな……え?!してない、よね?!だってオレ、寝てるだけだったじゃん!どうして?! 救急車の扉が閉まる直前見えたはーちゃんは、満面の笑みで手を振っていた。 言い訳くらいさせてよ! うっ……そんな風に思われてるとか……恥ずっ!

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