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祭りの準備をしようじゃないか①
目が覚めると、窓の外が明るくなっていた。ほどかれていた皇の手を求めて隣を見ると、珍しく皇が爆睡していた。
母様が、皇もほとんど寝ていなかったって、言ってたもんね。
みんながオレのことを心配してくれてたのは、大事だからだって……お前、言ってくれたよね?
お前もオレのこと、案じてたって……。
それって、お前もオレのことが大事って……思って、いいんだよね?
指先にほんの少し皇の手が触れると、皇がピクリと体を震わせた。
「あ……」
起こしちゃった。
「起きておったのか」
まだ目を閉じたまま、皇がオレの手を握った。
「ん」
「何時だ?」
まぶしそうに片目を開けた皇の問いに時計を探すと、すでに六時を回っていた。
「あ!お前、本丸に戻らなくていいの?!」
毒見役さんが来る時間って、何時だっけ?!皇を本丸に戻さなくちゃ!
「お!」
皇が目を丸くして、オレを見上げていた。
「え?もう間に合わない?」
あぁ……またオレのせいで、皇が怒られちゃうじゃん。
「そうではない」
「へ?」
「そなた、起きられるようになったのか?」
「え?……あ!」
皇を本丸に戻さないとってことばっかり考えていて、自分が体を起こせたことなんて、全然気にもしてなかった。
つい数時間前まで、重くて痛くて、動かすのも苦痛だったのが夢みたいに、体が軽い!
「軽いっ!」
「あ?」
「体が軽いし、痛みも……」
痛みもひいてる……と、言おうとして腕を上げた瞬間、左の鎖骨に猛烈な痛みが走った。
「っつ……」
「痛むのか?!」
全ての痛みが消えたわけじゃないみたいだ。でも寝る前に比べたら、本当に驚く程、全身が軽くなっていた。
「ううん、大丈夫」
昨日に比べたら……だけど。
これって、本当にシロのおかげなの?!
確かに今までも、シロと寝るとスッキリしたことがあったけど……。
そういえばシロ、オレの守護者だって言ってた。まさか本当に癒やしの力みたいなのがあるってこと?!びっくり!
「誠か?」
「うん!何か、すっごいスッキリしてる!」
「待っておれ!かか様を呼んで参る!」
皇は急いで病室を出て行った。
「……ぷはっ!」
”かか様”だって!皇、自分で気づいてなかったみたいだけど……。
初めて聞いた、皇の"かか様"呼びが何だか嬉しくて、オレは一人でニヤニヤしてしまった。
皇は母様を連れて、すぐに病室に戻って来た。
「青葉、スッキリしたって?」
「あ、はい!すっごい身体が軽くなってて……」
まだ左の鎖骨は痛いって、言っておいたほうがいいのかな?
「でかした!シロ!」
母様はシロの頭をグリグリ撫でた。シロは母様に甘えるように、その手に擦り寄った。
「良かった。あ、そうだ!それでも、もみじ祭りの舞は私が奉納するからね?」
「えっ?!」
もみじ祭り?!
うわ!すっかり忘れてた!
「え……今日、何日?」
隣に立っていた皇にそう聞くと『11月11日だ』と、机の上のカレンダーを指した。
11月11日?!もみじ祭りまで、あと四日しかないじゃん!
舞はもう覚えてる。体が大丈夫なら、舞えるはずだ。鎖骨が痛いけど、四日あればきっと良くなる!……はず。
「母様、オレに舞を奉納させてもらえないですか?」
「え?いや、いくら元気になったって言っても、青葉は五日も昏睡状態だったんだよ?」
「もう全然大丈夫です!だから……」
だってオレ……候補としての仕事をしっかりやりたい!皇のこと……諦めなくていいなら、出来ることは全部やりたい!
だって……行事参加も出来ない候補に奥方様が務まるのか……なんて、もうそんなこと言われたくないんだ。
そんなことで、皇を諦めたくない!
「しっかり奉納します!だからオレに……」
すぐ隣で皇が『ならぬ!』と、冷たく言い放った。
「御台殿がおっしゃる通り、昏睡状態から目覚めたばかりで、何を申すか!ならぬ!」
「大丈夫だってば!」
「駄目だ!」
母様は『はいはい。おしまい』と言って、オレと皇の間に入ると『どうしても舞いたい理由があるんだね?』と、オレに聞いた。
「あ……はい」
もみじ祭りで舞わなかったら、舞の奉納も出来ない駄目な候補とか、また言われるかもしれない。そんなことで皇を諦めたくない。ふっきーで決まりって言ってる大老様にも、オレのこと、認めてもらいたい。だから、どうしても舞の奉納をさせてもらいたいんだ。
「どのような理由だ?申せ」
「……」
お前を諦めたくないから、なんて……言えるわけない。
「申せぬような理由なら、許可することは出来ぬ。五日も昏睡状態であったそなたが、今日より四日後に舞を奉納だなど……無鉄砲にもほどがある!」
「何で出来ないって決めつけるんだよ!大丈夫だって言ってんじゃん!」
「そなたこそ!少し起き上がれた程度で、何故出来ると言い切れるのだ!舞の奉納を甘く見るでない!」
「甘く見てなんかない!」
睨み合う皇とオレの間で、母様が『はいはい、揉めないよ』と、オレたちを引き離すように軽く押した。
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