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祭りの準備をしようじゃないか②
「青葉」
「はい」
「絶対に無理はしないこと。体が辛かったら、直前でも舞の奉納を辞めるって決断が出来る?」
母様!それって……舞ってもいいって、ことですよね?
「はい!」
「御台殿!」
皇は母様を睨んでたけど、母様は皇を見もしないで、オレの頭をふわりと撫でた。
「約束だよ?」
「はい!ありがとうございます!母様っ!」
嬉しくて母様に抱きつくと、それを見ていた皇が、ものすごーく怖い顔をして、母様の後ろから、今度はオレを睨みつけた。
「御台殿、私は反対です!」
「私も医者としてなら反対だよ。でも、青葉が舞いたいって思う気持ちは、私も同じ立場だったから、痛いほどわかる。五日も昏睡状態だったのも、寝る前まで体が動かなかったのも、青葉が一番わかってるよ。それでも舞いたいなんて、無茶を言ってるってこともね。それでも舞いたい理由があるってことだろ」
「……」
母様の言葉に大きく頷くと、皇は、それ以上何も言わなかった。
「青葉のことが心配なのは、私もお前と同じだよ。見ていて無理だと思ったら、すぐに止めるつもりだから」
「……」
「青葉も、それでいいね?今はシロの力を信じて、舞の奉納を許可するけど、主治医として無理だと判断したら、すぐに止めるからね?」
「はい!」
皇が反対したのは、オレのことを心配してくれてるからだって、わかってる。
だけど、ごめん。どうしてもやりたいんだ。皇と……いたいから。まだ候補でいてもいいなら……オレ……候補じゃなくて、本当に、ずっとお前の隣にいられるために、やれることは、全部やっておきたい。
もみじ祭りでオレが舞の奉納をすることは、ずっと前に家臣さんたちに公表されてる。これでオレが舞わないってことになったら、またオレ、行事参加も出来ないダメ候補だって、思われるかもしれない。そんなの、嫌なんだ。皇の嫁候補として、家臣さんたちみんなに、しっかり認めてもらいたい。
体がつらかったら、直前でもやめると母様と約束したけど、オレはどれだけつらかろうが、舞の奉納を辞めるようなことは絶対にしないと、心に決めていた。
体はもう、大丈夫なはず。ちょっとだけ、鎖骨が痛い、けど。これくらいなら大丈夫!皇の嫁になってもいいって、家臣さんたちに認めて貰えないほうが、オレにとっては……自分の体の痛みより、ずっとずっと……つらいよ。だから……。
「そうだ千代、お前、占者様に何か話があるって言ってなかったっけ?もうすぐ戻られる時間じゃないか?」
「あ……」
皇は口をキュッと結ぶと、母様に『雨花を頼みます』と頭を下げ『すぐ戻る』と言って、足早に病室を出て行った。
雨花を頼みます、とか……。
さっきまであんなにオレのこと、怒ってたくせに。
皇……オレ……言うこときかなくて、ごめんね。
「皇、毒見役さんとの朝ご飯に、間に合いますか?」
「ん?毒見役の心配はいらないよ。しばらく毒見役との朝食会はお休みだってさ」
母様はオレのカルテを見ながら、体温計をオレに差し出した。
「え?」
「千代のお嫁さん候補が死にかけたんだ。鎧鏡一門的にも、のんびり朝食会なんかしてる場合じゃないよ」
母様はそう言って笑うと、体温を計り始めたオレの下瞼を、ぺろりと下げた。
「ん……ちょっと貧血気味かな。あ、そうだ。朝ご飯は血液検査のあとで用意するから、少し待っててね」
「はい。ありがとうございます」
腋の下でピピッと鳴った体温計を母様に差し出すと『ん、平熱だ』と、にっこり笑って、オレの頭をポンポンっと撫でてくれた。
「どこか痛むところはない?」
「あ……はい」
鎖骨の痛みは、黙っていた。
そのあと、母様に支えられて、ベッドから立ち上がってみた。
最初、ちょっとだけふらりとしたけど、全然歩ける。
母様がまたシロを撫でて『ホントすごいね、シロって』と、笑った。
「そうそう、ものすごく心配していた者たちが外で待ってるんだった。入れていいかな?」
「え?」
母様がにっこり笑って『入っていいよ!』と言うと、ひょこっと扉の外に、いちいさんが顔を出した。
「いちいさん!」
目覚めてすぐに姿を見ただけのいちいさんが『雨花様』と、一言発したあと、口をぎゅっと結んで、扉の前で立ち尽くしてしまった。
「いちいさん……」
いちいさんにも、たくさん、心配かけたよね。
いちいさんを迎え入れようと一歩踏み出すと、いちいさんの後ろから、とおみさんが顔を出した。
「とおみさん!」
「雨花様……雨花様のお目覚め、みな心待ちにしておりました」
とおみさんがそう言ったあと、病室のドアから側仕えさんたちが、ワッと顔を出した。
とおみさんが、いちいさんの肩をポンッと叩いて病室の中に押し入れると、側仕えさんたちはなだれ込むように、一斉に病室に入って来た。
「雨花様!おはようございます!」
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