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祭りの準備をしようじゃないか⑦
ちょっ……え?何?何言ってんの?
「柴牧家 様は、恩義に厚いお方と聞いていました。息子のあなたも、義に厚い方なのでしょう。いつか僕が鎧鏡家の然るべき職に就いたあかつきには、共に鎧鏡家の繁栄のため、力を尽くさせてください」
天戸井はそう言って、もう一度オレに頭を下げた。
「では、これで失礼致します。どうぞしっかりご養生なさってください」
「え?あ……」
天戸井に何も言えないまま、杉の一位さんと一緒に病室を出て行こうとする天戸井の背中を、ただ見送ることしか出来なかった。
二人が扉の前で、オレに軽く頭を下げた時『雨花様!』という元気な声と共に、あげはが勢いよく病室に飛び込んで来た。
「うわっ!」
扉のすぐ前に立っていた杉の一位さんとぶつかりそうになったあげはが、大きな声をあげた。
「あっ!大丈夫ですか?」
天戸井たちと入れ違いで外に出ていたさんみさんが、すぐに扉の外から杉の一位さんにそう声をかけると、杉の一位さんは『大丈夫ですよ』と、にっこり笑ってくれた。
「うちの小姓が、本当に失礼致しました」
オレも杉の一位さんに頭を下げると、杉の一位さんは一瞬驚いた顔をして黙った。
え?何?あ、そっか!皇の嫁候補が、側仕えさんたちにこんな風に頭を下げるのはおかしいことなんだった!前に樺の一位さんに言われたじゃん!
いや、でも今のは、謝るところでしょ?
「あげは、急に扉を開けたら駄目だよ?」
「あ、はい!ごめんなさい!」
あげはがそう言って、杉の一位さんに頭を下げると『大丈夫ですよ。梓の丸の、小姓さん、ですか。お可愛らしい』と、にっこり笑ってくれた。
「あ、ありがとうございます!」
杉の一位さんと天戸井は『ではこれで』と、頭を下げたあと、二人を見送るという、いちいさんとさんみさんと一緒に、病室を出て行った。
「あげは、大丈夫?」
「あ、ボクは全然……」
「違う違う。今のことじゃなくて。倒れて宿下がりしてたって……」
「あ!はい!雨花様が昏睡状態って聞いて……自分でもびっくりするくらい、ショックを受けちゃったみたいで……宿下がりさせていただきました。ごめんなさい」
「そんな!謝るのはオレのほうだよ。心配かけて、ごめんね」
あげはは泣きそうな顔をしながら、大きく首を何度も横に振ったあと、ポケットから何かを取り出して、オレに差し出した。
「ん?」
「サクヤヒメ様のお守りです。今朝、頂いてきました」
「うわぁ!ありがとう!」
受け取ったお守りには”厄除”と、書いてあった。
「厄除けお守り?」
「何のお守りがいいのかわからなくて……。でも、もう雨花様がサクヤヒメ様のおひざ元に迷い込まないように、の、お守りです」
「ありがとう、あげは」
って……あれ?サクヤヒメ様のお膝元で迷ってたなんて話、オレ、側仕えさんたちにしたっけ?
いや、あげははいつも色んな噂話をどこからか仕入れてくるから、その話も誰かから聞いたんだろう。
っていうか、そんなことより……。
「あげは、ぼたんはもう戻ってる?」
「あ……まだ、みたいですけど、今日中には戻って来るそうです!」
「そっかぁ、良かった」
そのあと、オレが昏睡状態になっていた話は、曲輪の外に漏れないよう、箝口令が敷かれていたことなんかを、あげはに教えてもらった。
『学校に行く時間ではないですか』と、病室に戻って来たいちいさんに言われたあげはは『帰ったらまた来ます!いってきまーす!』と、大きく手を振って、病室を出て行った。
「……」
「雨花様?どうなさいましたか?」
「あ……」
あげはがいなくなったら、急に思い出したんだ。
天戸井から言われた話……。
どういうこと、なんだろう?
「さっきの……天戸井、あ……楽様の話、なんですけど……」
「ああ……楽様は何か思い違いをなさっていらっしゃるようでしたね」
「え?」
思い違い?やっぱり?!そうだよね?!
「雨花様が候補様に選ばれたのは、他の候補様方を守るため……と、いうようなお話でしたよね?」
「はい!」
そうです!それです!いちいさん!
「何故そのような思い違いをなさっていらっしゃるのか……」
「あ!そういえば……」
いつだったか、塩紅くんに聞いた話を急に思い出した。
実家の位っていうか……そういうのが高い家から奥方様を選んだら、その家が力を持ち過ぎるから、奥方様には喜ばれないって話だ。
その話は、塩紅くんが天戸井に言われたって言ってたっけ。
オレはいちいさんにその話をした。
「ああ、そんな風に思っていらっしゃるから、楽様は、直臣衆のご子息様である雨花様が、奥方様候補の皆様を守るために候補に選ばれた……などと思っていらっしゃるのですね」
「そう、なんじゃないでしょうか。でもあの、それって……」
本当に、そう、なんじゃ……。
オレは、直臣衆の息子として、皇の嫁候補を守るために、選ばれ、た?
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