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だけ⑬
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和室で夕飯を食べ、片付け終わるのを見計らったように、外から大きな爆発音と歓声が聞こえてきた。
「あ!花火?」
急いで縁側から外を見上げると、ヒュウっという音を上げて上っていった火の玉が、夜空に丸く大きく開いた。
「うわぁ!もみじ祭りって、夜、花火を上げるんだっけ?」
隣に立った皇を見上げると『いや』と、片方の眉を上げた。
「え?」
確かに、去年のもみじ祭りで、花火が上がった記憶はない。
「花火が上がる予定なぞなかった。……御台殿であろう」
「母様?」
「おおかた、そなたが嫁を承諾したことの、祝いの花火であろう」
「え?!」
「ん?」
皇はニヤリと笑うと、部屋にあった羽織を持ってきて、オレの肩にふわりと掛けた。
「ここは寒い。傷に障る。まだここにおるつもりなら羽織っておけ」
『うん。ありがとう』と、お礼を言うと、皇はオレの後ろにまわって、背中からそっとオレを抱きしめた。
皇……あったかい。
「まだ……夢みたい」
まだふわふわしてる。
こんな風に抱きしめられてるのに……それでもまだ、皇がオレを選んでくれたなんて……夢みたい。
「ん?」
「オレ……で、いいん、だよね?」
しつこいって、怒られるかなって思ったけど、皇はオレの耳元で、ふっと笑った。
「余も、今が誠……夢なのではないかと思う」
「え?」
皇も?
「そなたがサクヤヒメ様のもとをうろついておる間、そなたはもう二度と目を開けぬのではないかと……どれだけ恐ろしかったことか。あの日々を思えば、そなたが今、こうして腕の中でおかしなことを申しておるのが、夢のように思える」
「おかしなことって何だよ!」
「おかしなことではないか。そなたで良いのか……だなど。余にはそなたしかおらぬと言うたであろうが」
「聞いた、けど。だって、それも全部、夢みたいなんだもん」
「そなたが現実だと信じられるまで、幾度でも言うてやる。余にはそなただけだ。そなたでなければならぬ。そなたがおらねば、何もない」
「も!もういい!わかった!」
これ以上、そんな声でそんなことを言われ続けたら……耳から溶けていきそうだよ、バカ。
熱い顔を自分の膝に埋めると『余にもこれが現実だとそなたが思い知らせよ』と、皇に背中からまた抱きしめられた。
「え?」
後ろを振り返ると『余の名を呼べ』と、顔を近づけられた。
キス……される?
ドキドキ、心臓がうるさい。
皇に聞こえちゃうじゃん。恥ずかしい。
「す、めらぎ?」
「今、一度」
「皇」
「ああ。……そなた、余の夢では、ないのだな」
皇がオレの頬を、優しく撫でた。
「……ないよ」
ふっと、唇が重なった。
「余も……そなたの夢ではない」
「皇……」
もう一度重なった唇は、オレから……だった。
ドオンという花火の開く音が、これが現実なんだって、後押ししてくれているみたいだ。
そこからオレたちは、夢じゃないって確認するためじゃないキスを、何度も、重ねた。
このまま、ここでする?と、思った時、皇はオレの体を離した。
「え……」
「これ以上触れれば……余は欲のままそなたを求め、傷付ける。余は今、そなたの全てが余のものなのだと、くまなく確かめたくて堪らぬ。そなたの肩を気遣う余裕を持てる自信が微塵もない。だが余は、もう二度とそなたを傷付けたくない」
皇はそう言って、オレの指先をキュッと握った。
オレだって……お前が全部、オレのものなんだって、今すぐ確かめたい。オレはお前のものなんだって、教えて欲しい。
肩なんて、今はそんな、痛くない。全然、痛くない、のに……。
「肩……痛くない」
「そのように申すな」
皇はオレをふわりと抱きしめた。
「余に……そなたを大事にさせよ」
皇……。
「今とて……そなたが欲しくて、裂けそうに胸が痛む。余をこのように苦しませるなぞ……そなたくらいだ」
「バカ……」
皇の胸に、思い切り顔をうずめた。
オレだって!もっと……お前に触りたくて……おかしくなりそうだよ。
花火が終わったようなので、皇と一緒に部屋に戻った。
布団に入ると、皇がオレの手を握った。
「早う、治せ。早う……そなたの全てに……触れたい」
オレだって!
何だか腹が立ってきて、返事もせずに、皇の手を思いっきり握り返した。
皇がビクリと体を震わせたのがわかって、ちょっと怒りが鎮まった。
隣の皇を見ると、口を結んで、ギュッと目を閉じている。
その様子が、何か……すごく可愛く見えて、ぎゅうぎゅう抱きしめたい衝動にかられた。
でも、出来ない。
う……。
もう二度と、無茶はしない!自分を大事にする!と、固く決意した。
だって、何の遠慮もなくお前に触ってもいいはずなのに、自分の怪我のせいで出来ないなんて、そんなのもうやだ!
キスだけで我慢なんて、もう二度としないでいいように、オレはこの先絶対に、ケガなんかしないんだからっ!
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