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正しい”お付き合い”のすゝめ①

11月16日 晴れ 怒涛のもみじ祭りから、一夜明けました。 昨夜は興奮していたのか、なかなか眠れなかった。横で皇の寝息が穏やかになっていくのを、腹立たし気に聞いていた……ら、いつの間にかオレも寝ていたらしい。 朝、目が覚めると、いつものように涅槃仏みたいなポーズで、オレを見下ろしている皇と目が合った。 「起きたか?」 「……何時?」 「もうすぐ……八時か」 「は……ちじっ?!」 驚いて飛び起きたせいで、ひびの入っている鎖骨に痛みが走った。 「った……」 肩を庇うようにうずくまると、皇が『痛むのか?!御台殿を呼ぶ!』と、騒ぎ出したので『全然大丈夫!』と、今にも母様を呼びに駆け出しそうな皇の寝間着の袖を引いた。 「誠、痛まぬか?」 「うん。いや、それより!もうすぐ八時って……お前、ここにいていいの?毒見役さんは?」 せっかく皇がオレのことを選んでくれたって知ることが出来た翌日から、もうやらかした?! 「毒見役は参らぬ」 「え?ホント?」 皇は『ああ。案ずるな』と笑うと、『ひどい寝癖だ』と、オレの頭を撫でて、そっと唇を付けた。 どぅあっ!恥ずっ! 今までも、こんな朝は何度もあったのに……今までとは全然違う。 何が違うって!だって……オレの寝癖を気にする前に、自分の寝癖を気にしろよ!お前の寝癖だって、結構なもんだからね?みたいなくせに、無駄にかっこいい皇は、オレを、嫁に選んでくれた、わけで。 今までも、今朝みたいな朝は何度も迎えたけど、どうせ同じことを、他の候補様たちにもしてるんだろ!とか思うと、むしろ腹が立っていたのに……。 違うって、知っちゃったから。 皇は、他の候補様には、こんなことしていないって、知っちゃったから。 皇がこんなことをするのは、オレにだけ……とか、そう思うと、もうどうしよう。嬉しい通り越して……もう、訳わかんない! 「雨花」 「ほあっ?!」 「目が覚めたなら、朝餉を運ばせる。皆が来るまでに、この寝癖をどうにか致せ」 にやりと笑って、もう一度オレの頭に軽くキスをした皇は、はだけている寝間着をキュッと直す姿も、めちゃくちゃかっこいい! いやいや、お前こそその寝癖、どうにかしろよ! ……いや、ちょっと可愛いけどね? ぷっと吹き出すと『ん?』と、皇が余裕綽々みたいな感じの笑みで、オレを見下ろした。 「……何でもない」 オレばっかりドキドキしてるみたいで腹が立つから、お前だって寝癖ひどいよってこと、教えてあげない。 お前もちょっとは、恥ずかしいって気持ちを味わったらいいんだ。 しばらくすると、皇付きの家臣さんたちがドカドカやって来て、皇の可愛い寝癖は、皇に気づかれる前に直されたんだと思う。 ダイニングルームに用意された朝ご飯は、歴代一位と言っていいほどの豪華さだった。何てったって、お祝いの日しか出て来ないはずの赤飯だし、朝だっていうのに、ケーキまで置いてある! 「す、ごいですね」 ここまで豪華な朝ご飯の理由は……まぁ、そういうこと、だろう。恥ずっ! 「雨花様、おめでとうございます」 オレのコップに水を入れてくれながら、ふたみさんがニッコリ笑った。 オレの隣に立ったいちいさんが『昨夜のうちに、梓の丸の使用人会議を開き、みなに真実を打ち明けさせていただきました。そのうえで箝口令を敷いております。この先は、今まで以上に、使用人一丸となり、雨花様を守らせていただこうと、梓の丸使用人一同、しっかりと誓い合いました。どうぞ、ご安心下さいませ』と、頭を下げた。 うちの家臣さんたちなら、絶対に信用出来る。皇に『大丈夫だよ』って意味で大きく頷くと、皇も小さく頷き返してくれた。 「あの……その会議の席で、使用人からもお祝いしたいという話が出まして……。代表者から、一言お祝いを申し上げさせて頂いてもよろしいでしょうか?すぐ済ませますので」 「構わぬ」 皇が腕を組んでそう言うと、いちいさんは『ありがとうございます』とお辞儀をして、『いいですよ』と、外でスタンバイしていたであろう”代表者”さんに声を掛けて、ドアを開けた。 「若様、雨花様、おめでとうございます!」 大きな花束を持ったあげはが、飛び込んできた。 「あげは!」 「雨花様!おめでとうございます!」 あげはは『これ、梓の丸のみんなからです』と、オレに花束を渡してくれた。 「うわぁ!ありがとう!みんなにも、ありがとうって伝えて。オレもあとで自分で言うけどね」 「はい!あ……じゃあ、これで失礼します」 「え?もう?あ!朝ご飯、一緒に食べていったら?ね?ぼたんも呼んで」 目の前に広がるご馳走は、二人で食べるには多過ぎる。 それに……あげはとぼたんが一緒なら、皇に対して朝から感じている気恥ずかしさも、ちょっとは薄くなる気がするし……。

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