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正しい”お付き合い”のすゝめ②

「それは駄目です」 「えええ?!どうして?」 二つ返事でOKしてくれると思っていたあげはに、きっぱり断れてしまった。 「お心が通われたばかりのお二人の邪魔をしたらいけませんって、一位様にきつく言われました」 いちいさーん! いちいさんを見ると、うんうん頷いている。駄目だ!いちいさんにそれを撤回する気は、さらさらなさそう。 「邪魔なんてことないよ。ほら、ふたみさん、朝からすごい張り切ってくれたと思うのに、二人じゃ、食べきれそうにないし」 「その点はご心配なさらなくていいそうです。今日の朝餉は特別なので、お残しなさることを前提に作っていらっしゃるって二位様がおっしゃってました。お残しなされた分は、幸せのお裾分けとして、使用人全員で少しずつ頂きましょうって」 ふたみさーん! ふたみさんを見ると『それでよろしいでしょうか?』と、にっこりされたので、『あ、はい。それはもちろんそうして頂いたほうがいいです』と、返事をするしかないっていうか……。 ああ、もう、残しちゃうから一緒に食べようって理由がなくなったじゃないですか、ふたみさーん! 「さぁ、もういいでしょう、あげは」 「あ、あの!退室する前に、一つだけ質問してもいいですか?」 あげはがいちいさんの顔色を伺いながらそう聞いてくるので、オレは二つ返事で『何?何?何個でも聞いて!』と、身を乗り出した。 「あの……」 「うん。何?」 「いつそうなられたんですか?」 「え?そうなった?何が?」 「お二人のお心が通われたのは……」 「えっ?!」 「こら!あげは!なんということを!失礼いたしました!」 いちいさんがオレたちに頭を下げると、オレの横で皇が『良い。昨日だ』と、さらりと返事をした。 おーーーい! 「昨日、ですか。うわぁ、付き合いたてホヤホヤってことですね!」 あげはは、宙を見つめている。 あげはー!どこいっちゃってんのー?帰ってきてー! 「あ!じゃあじゃあ、もう一個!どちらから、告白なさったんですか?」 ふぁっ?! 「こ!」 告白っ?! え?! した?された?え?え?ちょっと待って!告白?! オレが口をパクパクさせている間に、皇が『雨花だ』と、またしれっと返事をした。 「ふぁあああ?!なっ!はぁ?!オレぇ?!」 ちょっと待て!オレは告白なんてした覚えはない!お前が急に、嫁はそなたしかいない!とか……言い出して、離れるなって、ずっとそばにいろって、言ってくれたんじゃ……なかったっけ?え?オレっ?! 「一門の決まりがあるゆえ、そなたから好意的発言がなくば、余から言えるわけもなかろう?そなたが余に対する好意を告げたゆえ、余も白状したまでだ」 「ちょっ!ええっ?!」 「うわぁ!雨花様って、すごく恥ずかしがりでいらっしゃるのに、なんておっしゃったんですか?好きだ!オレを嫁にしろ!とか?ですか?」 「そっ!そんなこと!一言も言ってない!」 好きとか一言も言ってない! そうだよ!なのに、どうしてこうなった?! 「え?じゃあ、何ておっしゃったんですか?」 「あげは!いい加減になさい!」 本気でお怒りの様子のいちいさんに睨まれて、あげははしゅんとして『すいません』と、口を尖らせた。 いちいさん、いつも穏やかな分、怒るとホント怖いから……。 「大変な失礼を……本当に申し訳ございません。あとできつく言っておきます」 「叱る必要はない。雨花の小姓は、これくらいが丁度良かろう」 皇がオレを見て『ん?』と言うので『うん。いちいさん、あげはを叱らないでください』と、オレも頭を下げて、いちいさんにお願いした。 「雨花様!頭をお上げください!わかりました!叱りませんので!」 「雨花様!ありがとうございます!」 「あげは、もういい加減お暇なさい」 いちいさんがギロリと睨んだので、あげはは『はーい』と返事をして、ドアに手をかけた。 「雨花様!あとでまたお話お聞かせください!ボク、お付き合いって何をするのかわからないので、これからのために教えていただきたくて……」 「あげは!」 いちいさんの怒鳴り声が響いたと同時に、あげはは『失礼します!』と、驚いた顔のまま部屋を出て行った。 「本当に失礼致しました。朝餉を遅らせてしまいまして……」 いちいさんは深々と頭を下げたあと、ふたみさんと一緒に、朝ご飯を取り分けてくれた。 朝ご飯は本当にすっごく美味しかったんだけど……。 「どう致した?」 『ご馳走様』をしたあと、皇がそう声を掛けてきた。 「……ちょっと!」 皇の手を引いて、ダイニングから和室に急いだ。 もうさっきから気になって気になって仕方ないことがある。 和室の扉を閉めて、皇を座らせた。 「どう致した?」 「あのさ」 「ん?」 「……お付き合いって、何するの?」

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