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正しい”お付き合い”のすゝめ③

『あ?』と言ったまま、皇は固まった。 「さっきあげはに、お付き合いって何をするのか教えてくださいって聞かれたじゃん?……って、あ!」 そうか!こいつもオレと同じく、”お付き合い”するの、初めて……だよね?! 失敗した!聞く相手を間違えた! さっきあげはを見送ってから、オレは”お付き合い”って何をするんだろう?と、そのことばっかり考えていた。 だって、教えてくださいなんて言われたって、オレだって、昨日人生初めて、そういう状態になったわけで……。 「そうか。お前に聞いてもわからないよね。うーん……ここは別の誰かに……」 あげはに聞かれる前に、誰かにリサーチしておかなくちゃ!と、一番最初に頭に浮かんだのは、サクラだった。 いやいやいや!しっかりしろ!オレ!今までサクラに、どれだけの辱めを受けてきたと思ってるんだ!お付き合いって何をするの?なんて質問したら、奴のことだ。絶対おかしな返事をしてくるに決まってる! じゃあ……田頭?いや、この件に関して言えば、田頭はサクラの手先!田頭にこの質問は危険過ぎる!田頭からサクラに相談でもされたら、オレから直接サクラに相談するより、もっとややこしいことになるに決まってる! じゃあ、かにちゃん?……いやいや、かにちゃんが言ってる”彼女”のちせみちゃんは、自称彼女であって、現実には存在していないも同然の人だ。そんな人を彼女呼ばわりしているかにちゃんに、こんな質問をしても何の意味もない! じゃあ……誰に?! 「何を悩んでおる?」 「え?お付き合いって何をするか、聞いたら普通に答えてくれそうな人を考えてみたんだけど、サクラも田頭もかにちゃんも、普通には答えてくれなさそうだなって思って」 『ああ』と言った皇は『(えい)に聞くか』と、言った。 「は?」 詠って言った?詠にって……ふっきーにってこと? 間違えたとしても、何言ってんの?ふっきーに聞けるわけないだろうが! 「詠って言った?ふっきーに聞くってこと?」 「そうだ。あれは物知りゆえ、そなたの望む普通の答えというものが聞けるやもしれぬ」 いやいやいや!物知りだからって、そこは聞いたら一番駄目なとこだろうが!お前の中には、気遣いとか申し訳ないとか、そういう心はないわけ?この殿様気質が! 「ふっきーは駄目だろ!」 「何故だ?」 そこで、本当に不思議そうな顔をするな! 「だって、ふっきーはお前の奥方候補だよ?」 「ああ。何を今更」 「今更って……お前にはデリカシーってもんがないのか!」 「あ?」 「お前の二十歳の誕生日まで、お前の嫁は決まらないってみんな思ってるんだよ?ってことは、二十歳まではお前に選んでもらえるように頑張るつもりでいるのに、こんな……一年以上前の今の段階で、すでに嫁は決定しましたなんてフライングを知ったら……オレがふっきーだったら、めちゃくちゃショックだよ」 「ああ、そうか。言うてなかったな」 「え?」 「詠は知っておる」 「……は?」 何を? 「そなたが嫁だと知っておる」 「……はぁぁぁ?!」 ふっきーは、オレが嫁だって知ってる?って……いつから?いや、いつとか、時期の問題じゃなくて!ええっ?!どういうこと?! 訳の分からないオレをしり目に、皇は携帯電話を取り出した。 いつものように名乗ることなく、相手を確かめることもないまま『梓の丸に来い』とだけ言って、電話を切った。 『え?今の電話、誰?』と聞いたら『詠だ』と言う。 『ふっきー、呼んだの?!』と驚くと『詠と電話で話すと嫌な記憶が蘇る』と、ぼそりと呟いて顔をしかめた。 「はぁ」 皇の嫌な記憶がどうしたとかより、今のオレにとっては、それよりふっきーだから!ふっきーが知ってるってどういうことだよ!そっちの説明が先だろうが! いや、待った!ふっきーが来るって……え?どうやって?候補としてうちに来るってこと?ちょっと!何勝手に呼んでるんだよ!候補として来るなら、いちいさんにも言っておかないと駄目じゃん! 「聞かぬのか?」 「は?」 「余の嫌な記憶が何か、聞かぬのか?」 「ちょっと待て!今はとりあえず、ふっきーが先!ふっきー、今からこっちに来るんだろう?」 「ああ」 皇は心なしか、拗ねたような顔で返事をした。 「候補として、来るってこと?」 「あ?さあな」 「そこ大事だろうが!松の一位さんとか連れて玄関から来るって言うなら、こっちだって迎える準備があるんだから!」 そう怒ると、皇はまた電話を取り出して『必要ないというにそなたは随分と嫁候補が板についてきたものだ』と、笑いながら電話をかけた。 「雨花がうるさい。地下から参れ」 皇は、いつものごとくそれだけを言うと、ブツリと電話を切った。

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