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正しい”お付き合い”のすゝめ⑤
「キス!」
「あ?」
あ、気持ちが先走って、口に出てた!
この二人、キスしてたじゃん!学校の階段で!
ふっきーは皇のこと、すっごい好きなんだろうなって思ってたのも、皇はふっきーを選ぶんだろうなって思ってたのも、アレを見たからだよ!
皇をギロリと睨んだオレの肩に、皇がふわりと手を置いた。
「しろ、と、言うことか?」
皇の顔が近づいた。
「ちがーう!」
何を勘違いしているんだ!こいつは!
オレは、思い切り後ずさった。
ふっきーが目の前にいるのに、キスしろなんて言うわけないだろ!バカ!
「二人、してたじゃん!」
「あ?」
「キス!」
ふっきーと皇は顔を見合わせると、皇は『あるわけがない』と、顔をしかめて、ふっきーは『ないないない!』と、もげるんじゃないかと思うくらい、首と手を横にブンブン振った。
「本当にしてないから!落ち着いて!」
いや、落ち着いたほうがいいのは、ふっきーのほうだと思う。
そんな慌てるとか……むしろ怪しい!
「いつの話?どこで?」
「え?二年の時。オレが生徒会に入ってすぐの頃、学校で。二人が鎧鏡家の会議室があるっていう五階から降りてきた、階段の踊り場のところで……」
そうだよ!あの階段の踊り場で、皇とふっきー、キスしてた!
「夢でも見たのであろう。馬鹿馬鹿しい」
「夢じゃないよ!オレ、それ見て、めちゃくちゃショックで!それで!」
そうだよ!それがめちゃくちゃショックで、それで、どういうわけか本多先輩に、キスされる羽目になったんじゃん!どっちも衝撃的なことで、しっかり覚えてる。夢のわけない!
「それで、なんだ?」
「……なんでもない。けど!絶対、夢じゃない!」
また本多先輩の話を蒸し返すとうるさそうなので、そこは黙っておいた。今は本多先輩の話より、お前の話だろうが!
「雨花ちゃん、若とキスだなんて……命令されない限り、ないから。そんな命令、受けた覚えもないし、キスした覚えも本当にないよ。何に誓ってもいい。よく思い出して!本当にキスしてるところを見たの?本当に若と僕?」
「え……」
そう言われると……皇がふっきーを抱きしめてる風な場面はしっかり見たけど、唇が重なったところをがっつり見たわけじゃ……ない。
「ほら見たことか!あるわけがない!」
何も言っていないのに、オレが見たのはキス現場だったわけじゃないとわかっただろう皇が、腕を組んでふんぞり返った。
「だって……」
確かにオレが勝手に思い込んでた、みたい、だけど!そう思っちゃったって仕方ないじゃん!ふっきーは、奥方候補ナンバーワンだと思ってたんだから!
「そもそもそなた以外と唇を合わせるなぞ、考えられぬ!」
「嘘!駒様とはしただろ!」
駒様に筆下しされたんだから!
「駒?するわけなかろう!」
「はぁ?!筆下ししてもらったくせに!」
「口付けなぞせぬとも、筆下しの儀は済ませられる!」
……。
……。
……確かに。
「……」
「そなたに嘘は吐かぬ。余とて唇を合わせたのは、そなたが初めてだ」
「余とて?」
「あ?」
「え?オレのこと?オレ、キスしたの、お前が初めてじゃないけど」
「何っ?!」
皇がものすごい勢いで立ち上がると『あの!』と、ふっきーも勢い良く立ち上がった。
「何だっ?!」
苛立ちながら皇がそう聞くと、ふっきーは『そのお話が長引くようなら席を外します』と、皇に頭を下げた。
「……この話はあとだ。そなた、詠に聞きたいことがあったのであろう」
皇は、ものすごく不機嫌そうにオレを睨んだ。
「あ」
「え?何?雨花ちゃんが用事だったの?」
「あ……用事っていうか……」
この雰囲気でふっきーに『お付き合いの仕方を教えて』なんて、聞きづらいだろうが!
「ん?」
「あの……」
オレが言い淀んでいると、皇が『付き合うとは何をするものなのか知りたいそうだ』と、意地悪そうな顔で、またオレを睨んだ。
「え?どういうこと?」
オレは皇を睨み返しながら、ふっきーに、お付き合いとは何をするものなのかとあげはに聞かれたけど、何をするかわからないし、でも、あげはの質問には答えてあげたいし……だから、お付き合いって何をするものなのかを教えて欲しいと、思い切って話した。
「ああ、そういうこと。でも、雨花ちゃんと若、散々付き合ってるみたいなもんだと思うけど。二人でいる時、何をしてるの?」
「うぇっ?!」
急にそんなことを聞かれて驚くと『ああ、わかったわかった。いいや。パソコンか携帯ある?』と、首を傾げた。
ちょっとふっきー!何が"わかったわかった"なの?!絶対誤解してるでしょ!
でも今は、そこを突っ込んでる場合じゃない。
ふっきーは、オレが渡したパソコンに、パチパチっと軽いタッチで何かを入力して、オレたちにパソコン画面を見せた。
「はい。正しいお付き合いの方法だって」
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