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正しい”お付き合い”のすゝめ⑥

パソコン画面を開いてすぐ、ふっきーは『もうタイムリミットかな』と、時計を見た。 皇にこっそり来いって言われて、地下から、多分、誰にも言わずに来てくれたんだろうから、松の一位さんたちにいないのがバレたら大変だ。 「ふっきー、無理言って来てもらってごめんね」 ふっきーにそう言うと、ふっきーは『無理を言ったのは若。雨花ちゃんじゃないよ』と笑ったあと、真面目な顔でこちらに膝を向けて、畳に手をついた。 「改めて……雨花ちゃん。雨花ちゃんを守るためだったとはいえ、今まで隠していてごめん!」 ふっきーは、ぺこりと頭を下げた。 「あ、ううん!オレこそ、何にも知らなかったとはいえ、何か色々……ごめん」 オレも思い切り頭を下げると、ふっきーがプッと吹き出したのがわかって顔を上げた。目の前のふっきーは、眉を下げて笑っていた。 「これ続けてたら、また長くなりそうだよね。今度は候補として、玄関から堂々と来るから、その時ゆっくり謝り合おうよ」 笑いながら立ち上がったふっきーが『じゃあ、また』と、手を振った。 「うん!ありがとう、ふっきー」 「うん。では若、私はこれで。くれぐれも、雨花様を失うような真似はなさらないでくださいよ」 「わかっておる!早う去ね」 『呼びつけておいてこれですよ』と、ブツブツ言いながら、ふっきーは、入って来た縁側から出て行った。 「で?」 「ん?」 「何と書いてある?」 皇はパソコン画面を気にする素振りをした。 「ああ、えっと……」 パソコン画面を覗くと『正しいお付き合いの仕方』と、書いてある。 「正しいお付き合いの仕方……だって」 正しいお付き合いの仕方なんてものがあるなんて知らなった!みんな、こういうの見ながら、お付き合いしてるの? 「内容は?」 「んーっと、ここにはまず、手を繋ぐって、書いてある」 「そうか」 皇は小さく頷くと、オレの手を握った。 「ふぁっ!何?」 「あ?そなた、付き合うとはどういうことか、あげはに説明したいのであろう?そなたは、自ら経験してもいないことを、あげはに説明出来るのか?」 「は?手、繋いだことあるじゃん」 むしろ、”繋いだことがある”程度どころじゃない。 でも……。 ”付き合う”って、こういうことからするもんなの?知らなかった!だってオレ……いわゆる”お付き合い”をするのは、皇が初めてだし。 柴牧家の家訓で、男女交際を禁止されてたから、誰かと付き合おうなんて思ったことがなかった。 その皇との関係だって、正式なお付き合いってのは、昨日、始まったばっかりなわけで……。 そんななのに、お付き合い前に、散々やることはやっちゃってるわけで……。 そんなこと、まだまだ可愛いあげはに言えるわけがない! あげはは付き合うとはどういうことか、オレに質問してきてくれたんだから、それに答えてあげたい!オレがしっかり”お付き合い”とはこういうことだ!って、あげはに説明できるように勉強しなきゃ! 「皇!」 繋いでいる皇の手を引っ張った。 「ん?」 「正しいお付き合いをマスターするぞ!」 「あ?」 「あげはの将来のためにも、オレがいいお手本になってみせる!」 オレは皇の手を離して、書斎からまだ使っていない小さいノートを持ってきた。 パソコンに書いてある、正しいお付き合いの仕方っていうのを、書き写すためだ。 「この画面を書き写すのか?印刷すれば良いではないか。」 「印刷されたものを見ながらあげはに説明したら、インターネットからの情報そのまんまだって、すぐわかっちゃうじゃん」 「そうか」 皇に覗きこまれながら、オレは『正しいお付き合いの仕方』ってのを、だーっとノートに書き写し始めた。 「相変わらず、そなたの字は美しい」 皇は、オレのノートを見ながら口端を上げた。 「手を繋いだあとは何をする?」 皇は、ノートを書き終えたオレの手を握った。 何ていうか……これが『お付き合い中』を意味する行為なのだと思うと、ただ手を繋いでいるだけなのに、猛烈に……恥ずかしい! そんな気持ちを隠すように、オレは、皇からノートに視線をうつした。 「えっと……次は、お互いの呼び方を決める、だって。思い切り恥ずかしい呼び方を勧めるって書いてあるよ?」 「恥ずかしい呼び方?」 「例えば、何とかリンとか、何とかタンとかどうでしょう?だって。えっと……オレだったら、あーりんとか、あーたん?かな?お前なら、すーりん、すーたんとか?すーたん、いいじゃん!」 そりゃないよなと思って爆笑すると、皇は『良いな』と、まんざらでもない顔をして、少し照れた。 はいぃぃ!?すーたんなんて、冗談だよ? え?すーたんなんて、呼ばれたいの? ……。 ……。 ……。 ……無理。

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