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正しい”お付き合い”のすゝめ⑦

皇との”呼び方攻防戦”を戦い抜いた末、何とか『すーたん』は呼べたらってことで決着した。皇も、呼べたらオレを『あお』と呼ぶかって言ってた。 まだ実際呼べてもいないけど『すーたん』『あお』って、今すぐにでも呼び合っていいんだと思うと、急に、皇とオレは本当にお付き合いしてるんだ!と、恥ずかしくなった。 うーん……さすが『正しいお付き合いの仕方』だよ!効果テキメン! これだけで、皇との距離が半端なく縮まった気がする! 「じゃあ、次!」 さっきから繋いだままの皇の手をギュッと握って、オレはノートを一枚めくった。 「何をする?」 ノートに視線を落とすと『一緒に遊びに出かける』とか『泊まりに行く』とか『テーマパークに行く』とか、今すぐには出来ないことが並んでいた。 皇に覗き込まれながら、必死に書き写していたからか、一度目を通しているはずなのに、ノートに書かれている内容は頭に入っていない。こんなことが書いてあったのかと、感心しながら、ノートに書かれた自分の字を追った。 「今すぐ出来るのは……い……」 「い?」 ノートには『いちゃいちゃする』と、書いてある。 言葉に詰まったオレの手元を見た皇が『いちゃいちゃする、とは、どういうことだ?』と、眉を寄せた。 「え……」 すでに今の状態が、いちゃいちゃって言うんじゃないの?繋ぎっぱなしの手を見てそう思ったけど……いや!お付き合いの仕方を調べてみたら、こんなに目から鱗状態なんだから、もしかしたら"いちゃいちゃ"も調べてみたら、何か正しいお作法があるかもしれない! 「調べよう!」 オレはもう一度パソコンに向き合って、いちゃいちゃの仕方を調べてみた。 「わかったか?」 「えっとね……膝枕、ぎゅー、髪くしゃ、ねじポケとか……色々書いてある」 「何語だ?それは。膝枕しかわからぬ」 皇は『まずはこれか』と正座をすると、ポンポンっと自分の太ももを軽く叩いて『参れ』と笑った。 「オレ?」 「ん?」 オレがされる側なんだ?と、思いつつ、皇の『参れ』に逆らえるわけもなく、皇の膝枕に頭を乗せた。 「どうだ?」 「えー、高いし、硬い。いつものほうがいい」 いつくらいからだったか、色々あって、耳掃除は皇にしてもらっていた。 いつもはあぐらをかいた皇の足に頭を乗せて、耳掃除をしてもらうんだけど、今は正座をしているので、いつもより頭が乗せづらい。 皇はオレの頭を持ち上げながら、正座からあぐらに姿勢を変えた。 「うん!これこれ!」 「いつもと何も変わらぬではないか」 「ん……そうだね。あ!じゃあ、ここでぎゅーを入れてみるとか!」 「あ?」 オレは頭をくるりと回し、皇のお腹側に顔を向けて、皇のお腹に抱きついた。 「あ……何かいいかも」 「そうか?」 「皇もやってみなよ。何かいつもと違うから」 いつも皇に耳掃除をしてもらったあと、オレが皇の耳掃除をしている。 オレは足の肉が薄いので、いつも正座をして皇の頭を乗せているので、いつもと同じように正座をして、ポンポンっと足を叩いて皇を招いた。 皇はすぐにオレの足に頭を乗せると、さっきオレがやったように、オレの腹にぎゅっと抱きついた。 「どう?」 「……ああ」 「あ!じゃあついでに、髪くしゃも併せてみる?」 「それは何だ?」 「こういうのだよ」 膝の上に乗る皇の髪を、少し乱暴に撫でた。 「どう?」 「……ああ」 「ああって何だよ?」 「何と言い表せば良いのか、わからぬ。初めて抱く、想いだ」 「え?気持ち悪い?」  そうだよね。男同士でいちゃいちゃとか……。 「そうではない。嬉しい……と、いうことなのだろう」 ぽそりとそう言った皇に、さらにぎゅうっと抱きつかれて、体温が一気に上がった。 何だ、こいつ!めちゃくちゃ……可愛っ! 皇を可愛いと思うとか……いや、今までも可愛い奴め!って思ったことはあったけど。 いつもは表情の乏しい皇が、こんな風にオレに抱きついてるとか……オレも何か、訳のわからない感情が沸いてくるじゃんかー! 「良いものだな」 「え?」 まだオレのお腹に抱きついている皇が、視線をオレに向けた。 「いちゃいちゃとは」 その言葉を聞いて、オレは盛大に吹き出した。 皇の口から『いちゃいちゃ』って言葉が出るとか……爆笑! 「だね」 笑いながら返事をすると『他には何をするのだ?』と、頭を上げた皇が、パソコンを覗き込んだ。 「この、ねじポケとはなんだ?」 「繋いだ相手の手を、自分のポケットに一緒に入れること?みたい。今はポケットないから出来ないね」 だけど……これならすでに修学旅行で経験済みだ。 「他は?」 パソコン画面には、追いかけっこをするとか、ご飯を食べさせ合うとか、軽いキスをするとか書いてある。 っていうか……これってどれも、すでに皇とやってるじゃん!

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