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正しい”お付き合い”のすゝめ⑧

すでにやってるってことは、ですよ?すでにオレは皇と、いちゃいちゃしていたということで……。 「……」 恥ずぅっ!オレ、もう散々皇と、いちゃいちゃしてたのか!? 「どうした?」 いや!恥ずかしがってる場合じゃない!いい方に考えれば、もう『お付き合いの仕方』の”いちゃいちゃする”の項は、”経験済み”ってことで飛ばしてもいいじゃんか! 「いちゃいちゃはもういいから、お付き合いの仕方の次、いくよ!」 「あ?」 オレはノートを開いた。 「えっと……二人の約束事を作ってみる……だって」 「約束?」 少し考えたような仕草をした皇は『そなたとしたい約束はもうした』と、オレのノートを覗き込んだ。 「は?」 何か約束したっけ? 「そなたが余に、輿入れをするという約束だ」 得意げな顔をした皇を、再び可愛いと思ってしまった。この調子でいったらオレは、本当に今日、こいつに萌え殺される! 「どう致した?」 「……何でもない」 「何を怒っておる?」 「怒ってない」 お前への萌えを隠すのに、必死なんだよおおお! 「余に輿入れは、やはり出来ぬか?」 「は?そうじゃないってば」 「いや。今一度、聞いておきたい」 「え?」 急に真面目な顔をして、皇はオレの前に座り直した。 「余に輿入れするということは、鎧鏡の次期当主の嫁になるということ。それはすなわち……そなたの命を、余に……さらには鎧鏡に預けるということだ」 「ああ、うん」 そんなのとっくに、覚悟してる。 「あ?」 「え?」 「良いのか?」 「うん」 「命を預けるのだぞ?誠、わかっておるのか?」 「わかってるよ。お前がオレより先に死んじゃったとして、その時家臣さんたちがお前を必要としたら、オレの命と交換に、お前を生き返らせるってことだろ?それ以上に何かあるの?」 「いや、それで合っておる」 「うん。だったら、わかってる」 今度はオレから、皇の手を握った。 お前や鎧鏡一門のみんなに命を預けてもいいっていうか、そういうしきたりみたいなの、オレにはどうでもいいんだ。だって……。 「お前がいない世界で生きてる自分とか……考えられないし」 お前がいなくなったあとの世界に一人、長く取り残されて、いつ会えるんだろうって生きてるくらいなら……お前の代わりにオレがサクヤヒメ様のお膝元に行って、お前が来るのを待っていたほうがまだ待てるかなって、思うから。 「それは余とて同じだ!」 皇は、オレの肩を庇いながら、ぎゅっと抱きしめた。 「そなたの命と引き換えにしてまで、余を生き返らせる必要がどこにある?そなたのいなくなった世界を守ったとて、余には何の意味もない!」 「そんな……意味がないとか言うなよ」 「お館様の言葉が、今ようやく理解出来た」 「え?」 「お館様はようおっしゃっていた。たった一人を幸せに出来れば良いのだと」 それ、母様にいつか、聞いたことがある。 「家臣全てを幸せに出来ぬで、何が当主かとずっと思うておった。だが、お館様のその言葉は、次期当主にではなく、余に向けた言葉だったのであろう」 「え?」 「余は……そなたを知るまで、家臣の望むままの、鎧鏡次期当主という肩書きを生きるだけの存在だった。それが全てで、それ以外の生き方なぞ考えたこともなかった。だがそなたを知り、余がここに在る意味が変わった」 「意味?」 「鎧鏡が潰れれば、世界は混沌に飲まれると言われて育った。余は鎧鏡の次期当主として、鎧鏡を潰さぬようここに在らねばならぬとのだと思うておった。余にとって、存在すること自体が、義務だったのだ。だが……そなたを知り、余は初めて、自らこの世界に在りたいと望んだ」 「……」 「今、余がここに在るのは、鎧鏡次期当主としての義務感からではない。そなたと共に……そなたの側に、在りたいからだ」 涙が込み上げてきて、皇の胸に顔をうずめた。 オレは、そんな風に、皇に想ってもらってるんだ。 オレだって、同じだよ。ただ……ただお前のそばにいたい。 お前がいるから、この世界が平和ならいいなって思うし。お前が大変じゃないために、世界が平穏無事ならいいのにって、思う。 こんな自分勝手な願いだけど、それが本当に叶ったら、オレの意図しないところで、世界中のみんなも平和になるって、ことにならない?皇の平和は、世界の平和と繋がってるんだろうから。 「そなたのいない世界なぞ、余には何の意味もない。何に代えても、そなたを守る。そなたを失った世界で、余に生き永らえよなぞ、申すでない。……そなただけは」 「……うん」 泣きじゃくっていた、小さな皇の姿を思い出した。 オレがいなくなったらこいつは……またあんな風に、泣くかもしれない。 もう二度とお前を、あんな風に泣かせたりしない。 強く、皇を抱きしめた。

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