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正しい”お付き合い”のすゝめ⑨
「雨花」
「ん?」
皇はオレの腕を押しのけて体を離すと、スッと目の前に正座した。
何?何?改まって!
「そなたは、余の嫁になると誓った。そうだな?」
「え?」
今さっき、改めて嫁になるって確認、した。よね?何?さらに確認したいの?
確かにオレも、昨日から何度もそんな確認をし合っていても、未だに皇の嫁になるなんて実感がわかない。
皇も同じなのかな?そんな心配しなくていいのに……なんて、ちょっとデレデレした気持ちで目の前の皇を見ると、キッと睨まれた。
「え?」
怒ってる?何で?今の流れで怒られるようなことあった?こいつの怒りスイッチって、どこで入るか、ホントわかんないんだから。
「この先、共に生きていく余に、隠し事とはいかがなものか」
「は?」
隠し事?それで怒ってるの?え?オレ、皇に何か隠してたっけ?
……。
「朝ご飯のトマト、こっそりお前のお皿に入れたこと?」
「それはわかっておった」
「嘘!知ってたの?」
「気付かぬわけがなかろう。そのようなことではない」
それじゃないの?……じゃあ、何?
「そなた、先程申したであろう」
「え?」
何て?
「余が……初めてではないと」
「ん?」
初めてじゃない?
「……ああ!キスのこと?」
そう聞くと、目の前の皇はさらに不機嫌そうな顔になって『そうだ』と、頷いた。
さっきオレが、初めてキスをしたのは皇じゃないって言ったことを気にしてるってこと?そんなことで不機嫌になってる皇とか……吹き出してしまった。
「笑いごとではない!」
「笑いごとだよ。別に隠してないし」
「では、申してみよ」
皇はキュッと口を結んだ。
”覚悟してます”的な顔をするから、また吹き出した。
あの皇が、オレの初キスの相手が自分じゃないなんてことで、こんなに心配してくれちゃってるなんて……オレの都合のいい夢なんじゃないかって、また心配になってくるじゃん。
めちゃくちゃ嬉しいけど。
「お前がさっき、オレが初めてキスした相手は、お前だろうみたいに決めつけるから……ちょっと、そうじゃないって、言いたかったっていうか……」
「あ?そのような事実はなかった、と、いうことか?」
「いや、なかったっていうか……ん…ぶつかって、口と口が当たっちゃった事故みたいなことはあって……。でもホント、それは事故みたいなもんだし、プリスクールの時のことで……」
「プリスクール?」
「うん。ロサンゼルスのプリスクールにいた頃の話。三歳、くらいだったかな?みんなの前でぶつかってそんなことになって……しばらくキスしたキスしたって、みんなにからかわれて、すごく嫌だったから、覚えててさ。さっきはちょっとムキになって……それを初めてのキスって、言ったん、だけど……」
「……だけど?」
「だけど……本当は……オレの中では……初めて、キス、した相手って、言ったら……その……やっぱり……その……お前、かなって……」
かぁっと顔が熱くなっていくから、顔を隠そうとうつむいた途端、ふわりと仰向けに床に押し倒されて、ニヤリと口端を上げた皇と目が合った。
「ふぉっ?!」
「肩に負担をかけまいと堪えてやっておったに、そなたが余との房事を望むとあれば致し方あるまい。そなたの望みを叶えることが、余の望みだ」
「まっ!え?!そんなこと言ってない!」
「言うたも同然だ」
「意訳すんな!」
皇の唇の感触が、ちょんっとオレの唇に当たったところで、鴬張りの廊下が遠くで鳴った。
ビクリと体を揺らすと、鎖骨に響いて『いたっ!』と瞬間的に上げた声に、皇もビクリと震えた。皇は『痛むか?!』と、オレから少し体を離した。
これ……使える!
これから皇の暴走時には、鎖骨が痛いって言えばいいんじゃないの?皇の優しさに対しては罪悪感がわくけど……そんな嘘なら、許す!
鴬張りの廊下を渡ってくる足音が、和室の扉の前で止まったと同時にノックの音が響いた。
「失礼致します。若様、雨花様。昼餉はどうなさいますか?」
ふたみさんだ。
昼餉?もう?
時計を見ると、もうすぐお昼という時間になっていた。早っ!
「こちらに運べ」
そう言った皇は『肩は痛まぬか?』と聞きながら、オレの鎖骨に負担がかからないように、体を起こしてくれた。
扉の外で『ではすぐに』と、返事をしたふたみさんの足音が遠のいていくのを聞きながら、皇と視線がかち合った瞬間、二人で同時に吹き出した。
「余の嫁になるということは、こういうことだ」
「え?」
「閨事 すら自由にならぬ」
『それでも良いか?』と、皇が笑うから『いいんじゃないの』と、照れて返事をすると『そこは”嫌だ”と申せ』と、いい笑顔を向けられた。
う……ホント、萌え死ぬ。
って、いやいや!しっかりしろオレ!無駄にカッコいいから、何かいいこと言ってる風だけど、今のただの下ネタだから!下ネタだからああ!
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