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正しい”お付き合い”のすゝめ⑩
お昼ご飯を待つ間、皇と”お付き合いの仕方”の次の項を確認した。
『お互いの趣味を一緒にしてみる』と、オレの字で書いてある。
「趣味?」
皇と二人で出来る趣味ってなんだろう?
皇と出会ってから一年以上経つ間に、結構一緒に過ごしてきたとは思うけど……。
考えてみると、いつもオレのやりたいことをやっていた気がする。
皇の趣味は何なのか聞いてみたら『趣味とは好き嫌いの類であろう。余に趣味なぞなくて当然だ』と、言い放った。
そうか。こいつ、好き嫌いをしたら駄目って言われてきたから、趣味も持ったらいけなかったんだ。
そっか……。
好き嫌いをしたらいけないからって、趣味すら持たない皇が、オレのことは……選んでくれたんだ。
皇……。
ちょっと感動して泣きそうになって、そのあと猛烈に使命感に燃えた!よし!オレが皇の趣味を見つけてやる!
「皇の趣味を探すとこから始めよう!」
「あ?そなたが好きなことをすれば良い。そなたが好きな物は、余も好きになろう」
「はぁ?甘い物の食べ歩きでも?」
少し考えた皇が『そなたがしたいなら』と、口端を上げた。
甘い物、苦手なくせに!お前にだって本当は、好きも嫌いもあるの、オレ、知ってるんだから!オレのために我慢とかしないで欲しい。
「皇!」
「ん?」
「いっこ、約束しよう!」
「あ?」
「お前、好き嫌いしたら命の危険があるとか言われてきたんだろうけど、オレには好き嫌い言っても大丈夫だから。オレには嫌なことは嫌って言ってよ。言ってもらったほうがオレは嬉しいよ?オレも言うから」
方眉を上げた皇が『わかった。約束致そう』と、ふっと笑った。
「うん。じゃあ、もう一回聞くよ?」
「ん?」
「甘い物の食べ歩き、一緒にしますか?」
皇は少し考えて『甘味は好んで食したいとは思わぬが……そなたが食す姿は見ていたい。供として同行させよ』と、笑った。
うっ……。
『まぁ、そういうことなら、まぁ、いいけど』と、照れ怒りをしながら返事をすると、目の前の皇は鼻で笑って『そなたの受験勉強の邪魔にならぬ時を見計らい、近々参るか』と、ふわりと笑った。
うぅっ……もう本当に!もう!本当にっ!かっこいいんだよ!バカっ!
『ん』と、小さく頷いたところで、また鴬張りの廊下が、今度は何人もの足音でにぎやかな音を立てた。
お昼ご飯を食べ終わると、皇の携帯電話に誰かから連絡が入って、皇は『本丸に行かねばならぬ』と、残念そうな顔をした。
そうだ!祭りの舞手をしていたオレに昨夜渡るのはいいとしても、お昼過ぎまで入り浸るとか駄目だよね!
オレを嫁に選んでくれたってことは、まだみんなには内緒、ってことなんだろうし。
皇、ここに居すぎだって怒られちゃってないかな?
心配してそう聞くと、昨日オレが怪我をおして舞ったのをみんなが知っているから、戻って来いって言われるまでオレのところにいても、誰も文句は言わないだろうと、皇はオレの頭をポンッと撫でた。
「そっか。良かった」
「そなたの怪我を理由に、このまま今宵も泊まる予定であったが、そうもいかぬらしい」
「そりゃそうだろ。お前、ここにいたって……」
『ただオレといちゃいちゃしてるだけだし』とか言おうとして、慌てて口をつぐんだ。
「ん?」
「あ、ほら!早く戻らないと!」
時計を指すと、わざとらしくため息をついた皇は、重そうに腰を上げた。
「雨花」
「ん?」
「そなたは本丸に戻れと申すが、余が戻りたいと思う場所は、いつでも、そなたのいる場所だ」
「え……」
この前『余が誠戻りたい場所は本丸にはない』って、皇が言ってたのを思い出した。
「本丸での用事というものが、どれほどかかるかわからぬが、戻れればここに戻って参る」
皇は、肩に腕が当たらないように、ふわりとオレを抱きしめた。
本丸に戻る場所がないのかって、すごく心配したのに……それが、皇が戻りたい場所はオレのいるところ、って意味、だったなんて……。
「ん」
きゅうっと胸が締め付けられて、皇の腕の中で顔を上げると、皇はにっこり笑って、キス、してくれた。
本丸に戻る皇を見送ってしばらくすると、高遠先生が来てくれて、いつもより随分早い時間から授業を受けた。どうやら皇が、早く来てほしいと、先生に連絡したらしい。
皇、こっちに戻って来るつもりで、早いうちに高遠先生を呼んでくれたのかもしれない。
そう思うとニヤニヤが止まらなくて、何度も先生に『集中!』と、注意を受けてしまった。
高遠先生の授業を終え部屋に戻ると、来るとしても夜中近いだろうと思っていた皇が、ソファで無駄に長い足を組んで、本を読んでいた。
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