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正しい”お付き合い”のすゝめ⑫
「余も、同じだ」
「え?」
オレの手を握っている皇を見上げると、皇はにっこり笑った。
「そなたを候補に選んだのは、目に見えぬ直感のようなものだったが、そなたを知るごとに……想いが募った」
握っているオレの手を軽くひいた皇は、ふわりとオレにキスをした。
「今そなたを求めるのは……直感などという不確かなものではない。……余の意思だ」
皇は、オレの肩を気遣いながら、きゅっとオレを抱きしめた。
「オレのこと、ずっと怒ってたくせに」
皇の胸にぐりぐりと頭をこすりつけると『そなたへの怒りは、余にとって必要なことだったのだろう』と、皇は笑いながら、オレの頭にキスをした。
それまで、感情を揺らすこと自体してはいけないことだと育てられた皇は、オレに対する怒りの感情に、大層戸惑ったらしい。
怒りを抑えようと思ってもどうにもならず母様に相談すると、母様は『青葉が自分の思い通りにならないからって、駄々を捏ねてるんだろ?千代が若様だからって、青葉はお前の思い通りになんかならないよ。そういうのは普通、小さいうちに、駄々を捏ねても人は思い通りにならないんだって経験をして学ぶんだ。でもお前はそれを今まで経験せずここまできたから、余計腹が立つんだろ。水疱瘡もおたふくも、大きくなってからかかるほうが重症化しやすい。それと同じだよ。今まで経験出来ずに来たことを、今、青葉が経験させてくれてるんだ。逆に感謝しろ』というようなことを言われてあしらわれたと、皇は眉を下げた。
母様っ!
「そなたは……それまで余自身が知らぬでおった余を、呼び起こす」
「知らなかった、お前?」
「ああ」
皇は、オレの頬をするりと撫でた。
「何より……苦しいほどに愛おしいと想う気持ちを、そなたが、余に教えた」
重なった唇が、熱い。
「そなたが……愛しい」
”オレも”って、言いたいのに……もう一度重なった皇の唇の熱が、オレの胸を締め付けて……言葉が出ない。泣きそうだよ。
どれだけ望んだかわからない皇が、こんなにオレのこと……想ってくれてたなんて。
「どうした?」
「痛い」
胸が、痛いよ。オレも、誰かを愛おしいと想うのが、こんなに痛いことだなんて、知らなかった。お前に会うまで……。
「肩か?!」
「違うよ、バカ」
心配顔の皇に、どうしても触れたくて、ぶつかるような勢いでキスをした。目を丸くした皇が、次の瞬間、ソファにオレを押し倒した。
「うわっ!」
今度はオレが驚くと、皇は急にハッとした顔をして『すまぬ』と、小さく呟いた。
オレの体を抱き起こして『このように誰かを求めるなぞ、生涯ないと思うておったに』と、ため息を吐いた。
「え?」
「余が不能だった話をしたであろう?」
「ああ、うん」
「そなたを前に、使い物にならねばいかが致そうかと、初めての渡りに行くまで、どれだけの重圧を感じたか知れぬ」
「えぇ?」
疑うようなまなざしを向けると、皇は『あ?何だ?その疑わしい顔は』と、不機嫌そうな顔でオレを睨んだ。
「だって……お前が不能だったなんて……いまいち信じられないんだもん。お前、いっつも……」
「……いつも何だ?」
「そんな……使い物、に、ならないとか、全然、なかったし……。むしろ、逆?みたいな……」
皇は『そうか。そなたは余との閨事 に満足ということだな』と、嬉しそうに笑った。
まっ!満足、だなんて、言ってない!けど……。う……。いや……ま、んぞく……し……う……恥ずっ!
「余も、同じだ」
「え?」
「そなたを抱けば……狂おしいほどに、満たされる。あれほど毛嫌いしておった、他人と肌を重ねるという行為が、かように心満たされるものだと……これもそなたが、余に教えた」
『青葉』と、小さく呟くようにオレを呼んで、皇は、もう一度ゆっくり、唇を重ねた。
「この肩……早う、治せ。早う治し、余を満たせ」
皇はまた唇を重ねて、オレの口の中に捻じ込んだ舌で、オレの舌をざらりと撫でた。
うっ!
これ以上したら、オレ、確実に……勃つ!
「お前が不能だったなんて、絶対嘘!」
皇の胸を押して、唇を離した。
「嘘なものか。駒にでも聞くが良い」
鎧鏡の次期当主たる者、何人もいる奥方候補全員を、性的な意味で満足させねばならないと、皇は小さい頃から、無駄に精のつく物を食べさせられてきたという。
だけど、皇は残念ながらっていうか、オレ的には嬉しいことにっていうか、そういった意味で”食指が動く”のは……その……オレ、に、だけって、ことで。
だから、皇の無駄についた精力を、オレが全部受け入れるべきだ!とか、訳のわからない主張をしながら、皇がオレに詰め寄ってくるんですけど!
何だ!その殿様的思考!
オレだって!……したくないわけ、じゃない、けど!鎖骨が完治するまでは、そんなことしたら駄目なんじゃないの?またお前が母様に怒られるんじゃないの?!
あ!そうだ!皇を止めるにはアレだ!
「痛っ!」
オレは、さっき覚えたばかりの『鎖骨痛い』を、さっそく発動させた。
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