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正しい”お付き合い”のすゝめ⑮

今日のテストは、午前中に8教科、午後に5教科。休憩はお昼の40分だけで、トイレ休憩は必要なら取るという恐ろしいスケジュールで行われる。 久しぶりの登校だからか、今日の皇のお昼当番はふっきーだと、昨日わざわざ通達が届いた。 だからオレは、久しぶりにサクラたちとお昼を食べながら、最近の学校での話なんかを聞こうと思っていたんだけど、お昼休憩に入ってすぐ、机をガタガタ動かしているところで『ごめん。ちょっと雨花ちゃん、借りていくね』と言ったふっきーに、腕を引かれた。 「えっ?!」 「時間ないから早く!お弁当持って!」 そう言ってオレにお弁当を持たせると、ふっきーはオレと皇を引き連れて、生徒会室棟のエレベーターのボタンを押した。 こんなところを天戸井に見られたら、また何か面倒なことになるかもしれない。オレは今日、お昼当番じゃないのに。 「ふっきー、二人で食べたほうが……」 天戸井がどこかで見ていないか、オレは廊下をキョロキョロと見渡した。 「ううん。次の機会はそうそう来ないだろうから、今日じゃないと」 「へ?」 「若のトラウマを取ってきて欲しいんだ」 「は?」 皇のトラウマ?何のこと? ふっきーが大老候補だって正体がわかったあのあと、候補同士の陣中見舞いという名目で、ふっきーは何度かうちの屋敷に来てくれた。 改めて階段落ちの時のことを謝り合ったり、ふっきーと知り合ってから今までの出来事で、あの時本当はこうだったんだというような話をして、今まで以上に仲良くなったと思う。 だけど、皇のトラウマの話なんて、言ってなかったと思う。 ふっきーの話は、オレが候補になってからの一年半と少し、大老様からの、”一番のフェイク候補たれ!”という命令を守ることが、どれだけ大変だったか……ってことがほとんどで、あとはだいたい皇に対する愚痴だった。 ふっきーから一番初めに、フェイク候補の任務が大変だって話を聞いた時『何かごめん』と謝ると、『雨花ちゃんは全然悪くないよ。この話をしてもいいのが雨花ちゃんだけだから聞いて欲しいだけなんだ。雨花ちゃんに謝られると、申し訳なくて話せなくなるから、そんなことしないで!ただ話を聞いて!』って、下げた頭を無理矢理戻されて、必死にお願いされた。 ふっきーが話に来るたびに、ふっきーが大変なのは、ただただ皇が原因だと、耳にタコが出来るくらい聞いたので、そのうちふっきーへの罪悪感もなくなったんだけど……。 ふっきーいわく、ふっきーの憂鬱の最大の原因は、皇の、オレへの好意がわかりやす過ぎるから……なんだそうだ。 誰を嫁にするか、二十歳の誕生日まで誰にも悟られたらいけないっていうのに、昔から皇の側についている人たちには、嫁はオレで決まりだろうっていうのが、そこはかとなくわかっていたらしい。 『オレには全然わからなかった』と言うと、『そりゃ雨花ちゃんの前では、最初っからずっとアノ若なんだろうから、わからないのも無理ないよ』と、ふっきーが肩をすくめた。 そう言われて『雨花様はご存知ない』っていう、懐かしい駒様の言葉が頭に浮かんだ。 今更ながら、駒様も本当に大変だったんだろうと、申し訳ない気持ちになった。 皇の近しい人にわかってしまうのはもう仕方ないとしても、皇がそんな状態だと、嫁はオレで決めていそうだということが、他の家臣さんたちにもわかってしまうのではないかと、大老様はいつも心配していたという。母様の時みたいに、オレが狙われかねないからって。 だからその分ふっきーは、目立つ候補たれ!と、大老様から色々な無茶ぶりをされていたらしい。 『その中でも、東都大の推薦を取れって言われたのが一番の無茶ぶりだったけどね!』と、ふっきーは鼻息を荒くしていた。 だけど、ふっきー……東都の推薦って、命令されたからって、ホイホイとれるものじゃないよ?大老候補って何人いるかわからないけど、もうふっきーで決まりでいいと思う。 っていうか、皇のトラウマって何? 「皇にトラウマなんて……」 ないでしょ?と、言おうとして、筆下しの儀の話を思い出した。 いやいや、でも、その時のトラウマは克服したってことでいいんじゃないの?だってもう、その……不能、じゃないんだし? それ以外で皇にトラウマなんて、思いつかない。 そう思いながら皇を見上げると、ものすごく嫌そうな顔をしていた。 え?何かトラウマになってることがあるってこと? 「え?何?」 「詳しい話は若に聞いて。どうにかしてもらわないと仕事にならないから。じゃあ、これが若の分ですから。私はここで降ります。帰る時にまた合流しますので、連絡ください。時間厳守でお願いしますよ、若」 「わかっておる」 ふっきーは皇にお弁当を渡すと、生徒会会議室がある五階でエレベーターを降りた。 「どういうこと?」 「着いてから話す」 エレベーターは、すぐに屋上に着いた。

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