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正しい”お付き合い”のすゝめ⑰

「あ!この前言ってたの、それ?ふっきーからの電話は、嫌な記憶が蘇るって……」 急にその話を思い出した。 「ああ、そうだ。そなたは余の嫌な記憶なぞ、どうでも良さげでおったがな」 皇はギロリとオレを睨みおろした。 確かに……皇がその話をしてきた時、オレはサラーっと聞き流した、よね。 「だって……あの時は、ふっきーが来るってことでワタワタしてたから……」 気まずくて、皇にそっとお茶を差し出すと、皇は『そなたは余よりも詠を優先したのだな』と、嫌な顔をしながら、すっとお茶を受け取った。 ここは……うん!もうやっちゃったことはどうにもならないし、そこはスルーしておこう。 「お前のトラウマって、この温室とふっきーからの電話で嫌な気持ちを思い出すって、ことだよね?何でそれでふっきーが困るわけ?」 仕事にならないから、今日トラウマを取ってって、ふっきーが言ってたけど……。 「ああ、大老と詠からの電話に出ぬからか?」 「はぁ?!」 「大老と詠からの電話は、嫌な記憶が蘇るゆえ出ぬ」 そんな理由で着信拒否してるの?いやいや、そりゃ、ふっきーも大老様も、困ってるだろうよ。 「え?でも何で今日なの?ふっきー、今日じゃないと次の機会はそうそうないとか言ってたじゃん?」 「ああ、あの電話を取ったのがこの温室だったゆえ、この場所でなら、余のトラウマを何とか出来るのではないかと考えたのではないか?この先、ここに来ることは、そうそうあるまい。ゆえに今日と申したのであろう」 「ああ、そういうこと」 って、言われても……どうしたらいいわけ? 全然わからない……と思っていると、皇が急にオレを抱きしめた。 「この場所も、詠からの電話も、そなたが目覚めぬでおった、あの底なしの恐ろしさを思い出させる」 皇はため息をつくと、『そなたが余の前からいなくなることが、どれほど恐ろしいことか……余は実際に経験し、知ったのだ。あの恐ろしさは、生涯忘れぬ』と、オレの肩に額を付けた。 おじい様に見せてもらった”小さい皇”が、まだ泣いているような気がした。 「皇」 「ん?」 「あの時のことは、もう変えられないけど……もしまた同じことが起こったら、オレ……絶対すぐ帰って来るよ?お前のところに。だからもう、怖がらないでよ」 「……」 返事をしないってことは、信じてないってこと? 「あの時は!」 「……」 「あの時は……お前は、ふっきーに決めたんだって思ってたから……お前に会うのが怖くて……戻らないとか言ってたんだけど……本当は……会いたかったんだ、すごく」 腹が立って、もう一度『すっごく!』と言って、皇をギュウっと抱きしめた。 「オレ……お前の大事なもの、一緒に守りたいって思ってる。大事なものは、いっこも減らして欲しくないって。オレが医者になろうと思ったのだって、お前の大事な人たちを、オレが助けられるようになりたいって思ったからだし。お前……オレのこと、大事だって言ってくれたろ?だからオレは……オレを守るよ?もうお前の前からいなくなったりしない。……信じろ、バカ」 驚いた顔で、一瞬オレを見上げた皇は、ギュッとオレに抱きついた。 皇の頭をそっと撫でると、皇は『信じる』と、小さい声で呟いた。 そのあと、オレのお腹が盛大に鳴って、声を上げて笑った皇が『食うか』と、オレに箸を差し出した。 皇と急いでお弁当を食べながら、また色々な話を聞いたんだけど、その話の中で、オレが年中行事デビューをした新嘗祭の日、皇が練り歩きに遅刻したのは、あの日の早朝に事故に遭った直臣さんのところに行っていたからだったっていう、衝撃の真実も知った。 その直臣さんは、皇が小さい頃から良くしてくれている人だそうで、万が一のことがあるかもしれないからと、皇はお館様と一緒に会いに行くことにしたんだそうだ。事故は大したことはなく、その直臣さんは、もう元気に働いていると聞いて安心した。 『言ってくれれば良かったのに』って言うと、『そなたが初めて年中行事に参加する日に事故を起こしたとなれば、行事に水をさしたなどと責める者や、そなたが不吉をもたらしたなどと申す者が出てこぬとも限らぬゆえ』と、困った顔をした。 「そっか」 あの日、オレの練り歩きに遅刻した理由を皇が黙ってたのは、オレや家臣さんを守るためだったんだ。 その事故を起こした直臣さんが、オレに申し訳ないことをしたからと、オレに、一日毒見役を譲ってくれることになり、それがちょうど、あの学祭二日目の翌朝だったんだそうだ。 オレの行事デビューに、皇が出席しないなんて……と、あの時はすごく落ち込んだけど、あの遅刻があったから、謝恩会あと、皇と時計台に泊まれたってこと、らしい。 うーん。 もし……去年の新嘗祭よりも前に、自分でこの先起きることを選べていたとしても、謝恩会あと、あの時計台で皇と一緒に過ごせるのなら、皇が新嘗祭に遅刻することを選んだ、かも。 皇にそう話すと『余も迷わずそちらを選ぶだろうな』と、答えた皇の真面目な顔がおかしくて、オレはしばらく笑い転げた。

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