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正しい”お付き合い”のすゝめ⑱

「そういえば、ふっきーが嫌がらせ受けてたこと、知ってたの?」 「ああ」 大老職はお館様の右腕で、鎧鏡一門をまとめる要といってもいい。今の大老様は、組織の上層部を任される人間は、何より対人能力が高くなければならないと、常日頃言っているんだそうだ。 ふっきーは、あの嫌がらせ事件を自力で解決することで、自分の対人関係処理能力の高さを、大老様にアピールしようと考えていたという。 『大老様に私の能力をわかって頂く絶好のチャンスなので、若は絶対に関与しないでください』と、皇はふっきーから、手出ししないよう止められていたんだそうだ。 あのいつも飄々としているふっきーが、そんな計画を立ててまで、大老様に認められたいと思っているなんて、びっくりした。 そんな頑張らなくても、すでにめちゃくちゃ認められてると思うけど……。 ふっきー以外の大老候補が何人いるのか聞いたら、皇はわからないと即答した。 『お前の大老候補だろうが!もっと興味持て!』と、つっこむと『詠だけ知っておれば良かろう』と、皇はのんびりした調子でそう答えた。 ……そっか。皇は、次の大老は、ふっきーで決まりだろうって思ってるんだ。 え?皇の大老って皇が決めるのかな?いや、大老様に能力を認められたがってるってことは、大老様が決めるのかな?誰が決めるにしても、オレもふっきーで決まりだと思う。 しっかし……改めてふっきーって、本当にゴリッゴリの家臣さんだったんだなぁ。 「ぅあ!そうだ!もしかして、修学旅行でふっきーが先に帰ったのって、大老様絡みだったってこと?!」 修学旅行でふっきーが先に帰ったの、絶対何かあると思ってた! 「ああ、あれはもともと大老は無関係だ」 その言い方!理由は何にせよ、ふっきーはやっぱり、怪我をしたから先に帰ったわけじゃなかったんだ! 皇は顎に手を置きながら、ふっきーが修学旅行で先に帰った理由を話し始めた。 修学旅行は、皇の、奥方候補に対する態度に、何かとうるさい大老様たちが物理的に遠い。皇がオレにどれだけ近付こうが、文句を言う輩がいないってことで、皇はとにかく修学旅行を楽しみにしていたという。 で、その期待感を、旅行前ふっきーに、散々話していたそうだ。恥ずっ! ゴリゴリの家臣であるふっきーは、そんなウキウキの若様とオレを二人きりにしようと、修学旅行で奮闘してくれていたらしい。 確かに今思うと、そんな感じ、だった気がする! なのに!そんなことは露知らずなオレは、皇とオレを二人きりにしようというふっきーの奮闘を、ことごとく妨害していたってわけだ。 だって!そんなの知らなかったし!ふっきーがいるのに、皇と二人きりになるなんて、抜け駆けみたいでイヤだったんだもん! ふっきーは『私がいたら、若が期待しているような展開には絶対なりません!若にあとで恨まれるくらいならもう帰ります!』と、先に帰ることにしたんだそうだ。せっかくの修学旅行をそんな理由で帰るとか!皇もそこは全力で止めてくれたら良かったのに! 「待って!じゃあ、あのふっきーの脱臼って……」 先に帰るために、わざと? 「ああ。詠にとっては関節を外すなど朝飯前だ」 「えええ?!」 皇は『痛まず外せるコツがある』と、笑った。   「先に帰ることは、詠にとっても都合が良かったらしい。気に病むな」 「え?」 皇は小さく息を吐くと『余から大老に話したことはないが、大老は、余がそなた以外を受け付けぬと、わかっておったようだ』と、大老様の話を始めた。 皇は、オレ以外娶る気がないらしいと気付いた大老様は、何とかオレを守ろうと尽力してくれていたらしい。 母様が候補の時に狙われたのは、自分が推す候補を嫁にすることで、自らが権力を得ようとする家臣同士の争いからだったんじゃないかと言われているらしく、そんな権力争いからオレを守るために、大老様は色々と策を講じてくれていたんだそうだ。 オレが駄目候補だと家臣さんたちに思わせて、わかりやすくふっきーを推しておけば、みんなふっきーが嫁になるだろうと思ってオレは狙われないだろうからと、オレは駄目候補という噂をわざと流し、わかりやすーくふっきーをべた褒めしていたという。 でもその作戦を知らないオレが、皇はふっきーを選ぶんだろうと、実家に帰るなんて言い出したら、そっちのほうが困るので、オレが宿下がりしないギリギリのところを保ちつつ、ふっきーが有利だと家臣さんたちに思わせておくことに、大老様はいつも頭を悩ませていたと、皇はふっきーからそう聞いたそうだ。 普通の家臣なら、候補をやめて実家に帰るなんて言い出すわけがないんだけど、いかんせんオレは、普通の家臣じゃなかったもんで……。 ふっきーは、大老様のそんな策と悩み事を逆手に取って『私がこれ以上一緒にいると、雨花様がご実家に帰ると言い出しかねません』と、修学旅行の途中で大老様に報告し、帰国許可を得たという。 怪我を理由に自分が先に帰国すれば、何の問題もなく全て丸く収まるはずだと、わざと脱臼して帰国するというプランを提案すると、大胆かつ若様想いの計画だと大老様に褒められたそうで、皇いわく、”ホクホクの帰国”をしたんだそうだ。

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