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正しい”お付き合い”のすゝめ⑳
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もうすぐ昼休みが終わるという時間に気付いて、皇の腕の中から飛び跳ねるように抜け出すと、皇は笑って『そういえばそなた、あげはの件は解決したのか?』と、聞いてきた。
あげはの件?
「あ!」
お付き合いの仕方を教えるって話!忘れてた!
あげはと最近、話をする機会がなかったから……。
でもテストが終わる今日あたり、あげはが聞きに来るような気がする!
そう話すと、皇は『何を尋ねられようが困らぬほどにはなったであろう?』と、オレの頭にキスをした。
教室に戻るため、ふっきーに連絡を入れようと電話を手にして、皇は嫌な顔をした。
「あ!そういえば、お前のトラウマ取らないといけないんだった!」
「ああ。この温室はもう、嫌な場所ではなくなった」
皇が、ふいにオレの腕を掴んだ。
「え?」
「次、この場所を思い出す時は、そなたのその赤い顔が、真っ先に浮かぶであろうからな」
皇がふっとオレにキスをした。
「うっ!」
こいつは本当に、恥ずかしいことをサラリとぉぉ!
「たっ、大老様とふっきーからの電話も、もう大丈夫?!」
「あ?いや。それは変わらぬ」
「そっちのほうが重要じゃん!あ!」
「ん?」
「この場所が大丈夫になったみたいに、違う思い出で塗り替えたらいいんじゃないの?」
「あ?どう塗り替えろと申す?あの二人からの電話が、喜ばしい内容であったためしがない。この先もそうであろう。塗り替えようもない」
皇は顔をしかめた。
……うん。それは……うん。
「うーん。じゃあ、大老様とふっきーからの電話に出たら、何か嬉しくなるような……ご褒美?用意しておけば、電話に出るのもイヤじゃなくなるんじゃん?」
「褒美?」
皇がオレをジッと見た。
「……何?」
「余が嬉しく思うことは何か、そなたに話して聞かせたな」
「……」
これは……嫌な予感が……。
「思い出せぬか?余の趣味の話だ」
いや、もうとっくに思い出してましたけど!
「あの二人からの電話を取るたび、そなたから褒美をもらうとしよう」
「いやいや!だってオレ、お前が電話を取る時、その場にいることのほうが少ないし!自分一人で用意出来るご褒美のほうが……」
「いいや、余への褒美はそなた以外ありえぬ」
「だっ……」
オレ以外の褒美はないとか、そんなことを言われちゃったら……断れないじゃん!
「ちょっと待て!褒美って何?」
一体、何を寄越せと?!
ワタワタするオレを見て、皇は『褒美は与えるほうが決めるものだ』と、ニヤリと笑って、携帯電話を取り出した。
「え?」
皇は目の前で、どこかに電話をかけ始めた。微かにオレの耳にも、相手を呼び出すコール音が聞こえてくる。
皇の携帯電話から、小さく『はい』という、ふっきーらしき声が聞こえると『今すぐ余に電話を致せ』と言って、皇はブチッと電話を切った。
「ええっ?!」
何、今の?!
そんなことを聞く間もなく、すぐに皇の携帯電話が鳴った。
「詠だ」
皇はオレに携帯電話のディスプレイを、これみよがしに見せてきた。
ああ、ふっきーからでしょうよ!お前がついさっき、ふっきーに電話をかけろって言ったんだから!
すぐに電話に出た皇は『用はない』と言って、すぐに電話を切った。
何それっ!!
「詠からの電話に出た」
目の前で皇がドヤ顔をするから、怒るよりもめちゃくちゃウケた。
こんな人が次期当主とか……鎧鏡さんち、大丈夫なの?
「……ちょっとかがんで」
皇はオレの前で、軽く膝を曲げて目を閉じた。
目は閉じなくてもいいっつうの!
「頑張った!」
オレは、皇の頭をポンポンっと撫でて、軽くハグした。
体を離すと、皇がポカンとした顔でオレを見ていた。
「何?褒美はオレが決めていいんだろ?さっきの電話なら、今ので十分!」
オレはそう言うと、皇に文句を言われる前に、逃げるようにエレベーターのボタンを押して、ふっきーに『今から降りるよ』と、電話をかけた。
『褒美はもらう側が、より喜ぶ物を与えねば効果がない!』とか、文句を言う皇と一緒にエレベーターに乗ると、あっという間に五階に着いた。
ドアが開くと、そこにはもうふっきーが待っていて『トラウマが取れたんですね!さすが雨花ちゃん!』と、興奮気味な様子でエレベーターに飛び乗ってきた。
「これで心置きなく、若に電話出来ます!」
「いや!ふっきー、お願い!皇にあんまり電話しないで!」
「え?」
「いや、最低でも一日一度は電話を寄越せ」
「駄目!そんなことしたら、オレにトラウマが生まれる!」
オレと皇の言い合いを聞いていたふっきーは、何かを悟ってくれたようで、エレベーターを降りると『雨花ちゃん、わかった。なるべく若に電話しないようにするね』と、耳打ちしてくれた。
ふっきー!皇の大老は、ふっきーしかいないよー!
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