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正しい”お付き合い”のすゝめ⑳

✳✳✳✳✳✳✳ もうすぐ昼休みが終わるという時間に気付いて、皇の腕の中から飛び跳ねるように抜け出すと、皇は笑って『そういえばそなた、あげはの件は解決したのか?』と、聞いてきた。 あげはの件? 「あ!」 お付き合いの仕方を教えるって話!忘れてた! あげはと最近、話をする機会がなかったから……。 でもテストが終わる今日あたり、あげはが聞きに来るような気がする! そう話すと、皇は『何を尋ねられようが困らぬほどにはなったであろう?』と、オレの頭にキスをした。 教室に戻るため、ふっきーに連絡を入れようと電話を手にして、皇は嫌な顔をした。 「あ!そういえば、お前のトラウマ取らないといけないんだった!」 「ああ。この温室はもう、嫌な場所ではなくなった」 皇が、ふいにオレの腕を掴んだ。 「え?」 「次、この場所を思い出す時は、そなたのその赤い顔が、真っ先に浮かぶであろうからな」 皇がふっとオレにキスをした。 「うっ!」 こいつは本当に、恥ずかしいことをサラリとぉぉ! 「たっ、大老様とふっきーからの電話も、もう大丈夫?!」 「あ?いや。それは変わらぬ」 「そっちのほうが重要じゃん!あ!」 「ん?」 「この場所が大丈夫になったみたいに、違う思い出で塗り替えたらいいんじゃないの?」 「あ?どう塗り替えろと申す?あの二人からの電話が、喜ばしい内容であったためしがない。この先もそうであろう。塗り替えようもない」 皇は顔をしかめた。 ……うん。それは……うん。 「うーん。じゃあ、大老様とふっきーからの電話に出たら、何か嬉しくなるような……ご褒美?用意しておけば、電話に出るのもイヤじゃなくなるんじゃん?」 「褒美?」 皇がオレをジッと見た。 「……何?」 「余が嬉しく思うことは何か、そなたに話して聞かせたな」 「……」 これは……嫌な予感が……。 「思い出せぬか?余の趣味の話だ」 いや、もうとっくに思い出してましたけど! 「あの二人からの電話を取るたび、そなたから褒美をもらうとしよう」 「いやいや!だってオレ、お前が電話を取る時、その場にいることのほうが少ないし!自分一人で用意出来るご褒美のほうが……」 「いいや、余への褒美はそなた以外ありえぬ」 「だっ……」 オレ以外の褒美はないとか、そんなことを言われちゃったら……断れないじゃん! 「ちょっと待て!褒美って何?」 一体、何を寄越せと?! ワタワタするオレを見て、皇は『褒美は与えるほうが決めるものだ』と、ニヤリと笑って、携帯電話を取り出した。 「え?」 皇は目の前で、どこかに電話をかけ始めた。微かにオレの耳にも、相手を呼び出すコール音が聞こえてくる。 皇の携帯電話から、小さく『はい』という、ふっきーらしき声が聞こえると『今すぐ余に電話を致せ』と言って、皇はブチッと電話を切った。 「ええっ?!」 何、今の?! そんなことを聞く間もなく、すぐに皇の携帯電話が鳴った。 「詠だ」 皇はオレに携帯電話のディスプレイを、これみよがしに見せてきた。 ああ、ふっきーからでしょうよ!お前がついさっき、ふっきーに電話をかけろって言ったんだから! すぐに電話に出た皇は『用はない』と言って、すぐに電話を切った。 何それっ!! 「詠からの電話に出た」 目の前で皇がドヤ顔をするから、怒るよりもめちゃくちゃウケた。 こんな人が次期当主とか……鎧鏡さんち、大丈夫なの? 「……ちょっとかがんで」 皇はオレの前で、軽く膝を曲げて目を閉じた。 目は閉じなくてもいいっつうの! 「頑張った!」 オレは、皇の頭をポンポンっと撫でて、軽くハグした。 体を離すと、皇がポカンとした顔でオレを見ていた。 「何?褒美はオレが決めていいんだろ?さっきの電話なら、今ので十分!」 オレはそう言うと、皇に文句を言われる前に、逃げるようにエレベーターのボタンを押して、ふっきーに『今から降りるよ』と、電話をかけた。 『褒美はもらう側が、より喜ぶ物を与えねば効果がない!』とか、文句を言う皇と一緒にエレベーターに乗ると、あっという間に五階に着いた。 ドアが開くと、そこにはもうふっきーが待っていて『トラウマが取れたんですね!さすが雨花ちゃん!』と、興奮気味な様子でエレベーターに飛び乗ってきた。 「これで心置きなく、若に電話出来ます!」 「いや!ふっきー、お願い!皇にあんまり電話しないで!」 「え?」 「いや、最低でも一日一度は電話を寄越せ」 「駄目!そんなことしたら、オレにトラウマが生まれる!」 オレと皇の言い合いを聞いていたふっきーは、何かを悟ってくれたようで、エレベーターを降りると『雨花ちゃん、わかった。なるべく若に電話しないようにするね』と、耳打ちしてくれた。 ふっきー!皇の大老は、ふっきーしかいないよー!

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