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竜宮までのカウントダウン①

「お前、会議なんじゃなかったの?」 「ああ、そなたはいつ、三の丸に向かうのだ?」 「え?」 そうだった。今夜、オレの鎖骨が完治しているかどうか、母様が診察してくれると、昼休みに皇に話していたんだった。 それを聞くために、わざわざここに来たの? 『肩が治ったら遠慮なく抱く』と言っていた、皇の言葉を思い出して、身震いした。 今夜……絶対、完治したって言われる。自分の体だから、わかる。ってことは、今夜……。 「あ……母様がしらつき病院から帰って来たら、連絡が来るはず……」 なんて言っているそばから、いちいさんが、母様から連絡が来たと知らせに来てくれた。 皇はそれを聞くと、オレに支度を急がせ、いちいさんに『余が送る』と言うが早いか、屋敷の前に停めてあった皇の車に、オレを押し込めた。 三の丸で母様の診察を受けると、思った通り、鎖骨は完治していた。 診察が終わったオレを、皇は梓の丸の玄関まで送り届けると『今宵、不測の事態が起きぬ限り、参る』と、オレに耳打ちして、急いで本丸に帰って行った。 会議があるから、来られないって、昨夜は言ってたくせに……。バカ!恥ずっ! 部屋に戻り、高遠先生が来るまでに予習をしておこうと、カバンの中から教科書を取り出すと、何かが床に落ちた。 「ん?」 見覚えのない封筒だ。 曲輪の外に出た日は、戻った時必ず、曲輪の入り口で荷物の検査をされる。それは、曲輪の外に出たみんなが受けるもので、例外はない。 意図しておかしな物を持ち込むのを防ぐだけでなく、意図せず持ち込んでしまうのを防ぐためだと、説明を受けている。 オレは今日、いつものように学校から帰って来て、最初の門をくぐったところで、自分のカバンが検査されるのを見ていた。その時、こんな封筒なんてなかった……はず。どこかの教科書に、挟まっていて見過ごされたのかな? 真っ白で何も書かれていない封筒を拾おうとして、”候補は狙われやすい”という、皇の言葉がふいに頭に浮かんだ。 「……」 何か……イヤな予感がする。まさか……爆発物、なんてことはない、よね。 こんな薄い封筒に、爆発物は入っていないと思うけど……。何か別の、危険な物が入っているかも……。 オレは封筒に触らず、いちいさんを呼んだ。 そのあと、いちいさんが呼んだ門番さんに封筒を調べてもらった。"門番"は、一門の警察のような組織である『護群(ごぐん)』に所属している家臣さんたちがその職に当たっている。門番さんはみんな、みるからに強そうな人たちばっかりだ。 大丈夫だろうけど雨花様は念のため触らないようにということで、門番さんが封筒を開けて、中に入っていた物を見せてくれた。 そこには、達筆な文字で『柴牧家の後継者様』とだけ書かれた便せんが一枚、入っていた。 「え?」 柴牧家の後継者様って……父上への、手紙? 何でオレのカバンに? ……? でも、とにかく危険物は入っていないようだ。安心した。 「すいませんでした。大騒ぎして。これ、父上への手紙、ですよね?」 笑い返してくれると思った目の前のいちいさんは、顔を曇らせていた。 「いちいさん?」 「あ、いえ。この手紙、私が預かってもよろしいでしょうか?」 「え?はい」 いちいさんは、門番さんから受け取った手紙を袱紗(ふくさ)に包むと、そそくさと部屋を出て行った。 あの手紙……何かあるの?父上への手紙でしょう?ちょうど今日、父上は会議で本丸に来ているだろうし、渡せるんじゃない? いちいさんにそう伝えようと、追うように部屋を出た。廊下を曲がったところで、いちいさんが誰かと電話をしている背中が見えた。 「そうです。はい。ご心配なさるでしょうからと、お耳に入れないように……はい。ですが、これはそのことと繋がっているのでは……はい。承知しました。会議中、申し訳ございません。急ぎお伝えせねばと……はい。かしこまりました」 いちいさん、誰と話してるんだろう?でも、電話の相手は、衆団会議に出席している人……だよね?内容からして、多分。 もしかして、父上かな?さっきの手紙のことを父上に伝えてくれてるのかもしれない。 「いちいさん?」 後ろから声を掛けると、いちいさんは見たこともないくらい驚いた顔で振り返った。 「あっ、雨花様。どう、なさいました?」 いちいさんは明らかに動揺している。 ……何で? 「あ、いえ。今の電話、もしかして父上ですか?父上、今、衆団会議で本丸に来ているでしょうから、さっきの手紙、渡せるかなって思ったんですけど」 「あ、はい。あ!雨花様、そろそろ高遠先生がお見えになる時間ですよ?お仕度は大丈夫でしょうか?」 「え?はい。すぐ、します」 いちいさんはオレに頭を下げると、さっきのように急いでその場を立ち去った。電話で誰と話していたのか、言わないまま……。 でも……いちいさんの返事からすると、電話の相手は父上じゃないと思う。父上じゃないなら、誰と? いちいさんの様子は、明らかにおかしかった。 何で? ……あの手紙、何か、あるの? ざわざわと、胸が騒いだ。

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