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竜宮までのカウントダウン③
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「何をしておる?」
「ぎゃっ!」
玄関に着く前に、見失った!と、思った皇に、後ろから声を掛けられた。
う……尾行は失敗したようだ。鎧鏡家の次期当主様を尾行する技術は、オレにはなかったらしい。
「こそこそとつけるような真似をしおって」
そう言われてムッとした。
お前のほうがこそこそしてるくせに!
こっそり二人の話を聞こうと思った作戦は失敗したわけだし、もうこうなりゃ、直接聞いてやる!
「お前だって、オレにこそこそ何か隠してるだろ!」
「……」
ほーら、やっぱりね!返事をしないのが、お前が何かオレに隠してるって、言ってるみたいなもんじゃん!
口を開かない皇に、畳みかけてやろうと一歩近づいた。
「今日、オレのカバンに入ってた手紙のこと?」
ふぅっと諦めたように息を吐いた皇は『そうだ』と、頭を掻いた。
「何でオレに隠すわけ?父上宛ての手紙だろ?オレに知られたらマズいの?何にも書いてなかったよ?」
「柴牧家 殿への手紙?」
「え?うん。柴牧家の後継者様って、書いてあったから。でもそれだけだよ?それしか書いてなかったのに、あの手紙の何をオレに隠そうっていうわけ?」
一瞬、皇の顔が曇った。
「何?」
「いや。今のところ、余にもようわからぬ。そなたのところの一位からは、不審な手紙がそなたの鞄に入っておったと、それだけの報告を受けた」
「どこが不審なの?」
「そなたに覚えのない手紙が、いつの間にやらそなたの鞄に入れられておったのであろう?十分不審であろうが」
皇は呆れたようにため息を吐いた。
「あ、まぁ、言われてみれば……」
確かに。どこで入れられたんだろう?いやいや、どこでって、普通に考えたら、学校以外にないじゃんか。
「あ!”柴牧家”とか書いてあったから、オレ、あの手紙は父上宛てだとばっかり思い込んでたけど、オレのこと?柴牧家の後継者様って。あ!ほら、オレ階段落ちしたあと、今日久しぶりに学校行ったじゃん?すごいたくさんの人に声掛けてもらったり、囲まれたりしたから……。そのうちの誰かが書いてくれた手紙が、カバンに入ってた、とか」
柴牧家の後継者様とか、オレのことを呼んでるヤツがいるのかわからないけど、あの学校特殊だし。そんな風にオレを呼んでるヤツがいても、おかしくない。結局あの手紙、宛名が書いてあるだけで、他に何の内容もなかったけど、知らぬ間にカバンに入っていたような手紙だ。他にも便せんがあったけど、そっちはどこかに落ちてしまった……とかじゃないのかな?
おー!名推理!とか思いながら、その考えを皇に話すと、皇はちょっと険しい顔をした。
「何?」
オレの推理に何か文句が?
「いや。そう考えるのが妥当だな。……それよりそなた、間に合うのか?高遠先生の授業は」
「あ!急ぐ!」
皇と一緒に急いで玄関に着くと、いちいさんが立っていた。
「雨花様……」
いちいさんは、気まずい顔で頭を下げた。
「手紙の件、雨花に嗅ぎ付けられた」
「はぁ?!」
言い方!
オレが膨れると、皇は笑いながら『一位には、不審に思うことがあれば逐一報告するよう命じておる。そなたが知らぬ間に持ち帰った手紙なぞ、一位が余に報告して当然だ』と、オレの膨れた頬を、ブシュッと潰した。
「あ……はい。若様に報告をするなど、雨花様がご心配なさるかと思い、黙って若様に報告致しました。雨花様に隠すような真似をして、逆に心配をおかけし、申し訳ございません」
いちいさんは、深々と頭を下げた。
「あ!頭を上げてください、いちいさん。オレのために隠してくれたって、わかってますから」
そう言うといちいさんは『ありがとうございます』と、もう一度頭を下げた。
「だが一位、そちが案ずるような不審な手紙ではなさそうだ。ひとまず余が預かる。手紙は?」
「こちらに」
いちいさんは、手紙が包まれているだろう袱紗を胸元から取り出して、皇に差し出した。
袱紗ごと手紙を受け取った皇が、いちいさんに小さく頷いて、オレに向き直った。
「夜、参る」
「あ、うん」
皇は、シロがお気に入りの場所のほうに、足早に去って行った。
「さぁ雨花様、もう高遠先生がいらっしゃいます」
「あ、はい」
いちいさんはにっこり笑って、オレに屋敷に入るよう促した。
あの手紙が皇の手に渡ったことで、オレは完全に安心していたんだと思う。
そのあと、高遠先生がすぐに来て、授業をしてもらっている間、さっきまでの不安感はどこへやらで、このあと皇が来るってことは……そういう、ことになるよね?!なんて、能天気なことばかり、考えていたんだから。
あの手紙をやり取りする、皇といちいさんの様子が、いつもと違っていたのは、どこかでわかっていたはずなのに……。
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