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竜宮までのカウントダウン⑦
スクリーンに映し出された映像は、展示会が開かれたあの大広間、だと思う。広い和室に、たくさんの人があぐらをかいて座っている。
みんなの雑談でざわざわとした中、お館様が部屋に入ると、ざっ!という音と共に、みんなが姿勢を正して、音量が消されたのかと思うほどに、シンッと静まり返った。
「少し、飛ばすぞ」
「え?」
皇は、お館様が部屋に入ったあとから、どわーっと早送りをした。
皇が再生したのは、お館様と母様、皇が部屋を出て行ったところだった。
「え?会議終わっちゃってんじゃん。早送りし過ぎ」
「そなたに見せたいのは、この先だ」
三人が出て行ってすぐ『一つ気になる噂を耳にしました。ご本人様に確認させていただきたいのですが』と、手を上げる後ろ姿が映し出された。
「どのような?」
大老様がその人にそう問いかけると、その人は『柴牧家 様の噂です』と、父上のほうに体を向けた。
家臣さんたちが、またざわざわし始めた。
「私の?」
定点カメラで撮られただろう映像の、父上の顔は小さいけれど、不思議そうな表情をしているのだろうとわかった。
「はい」
「どのような?」
「若様の奥方候補の雨花様は、柴牧家様のご子息様でいらっしゃる。万が一、雨花様が奥方様になるようなことがあれば、柴牧家は誰が家督を継ぐのか、と」
そう言うと、どこからともなく『雨花様が奥方様になられることはない!直臣衆のご子息だぞ!』と、いう声が飛び『そうだ!』『そのような心配要らぬ!』という声が飛び交って、その場に笑いが起こった。
家臣さんたちは、端からオレが皇の奥方様になるわけないと思ってるんだ。塩紅くんや天戸井の言っていたことが、頭に浮かんだ。
「静まれ!」
大老様が立ち上がって大声でそう言うと、会場はまたシンと静まり返った。
「雨花様は、占者様が桃紙を送られ、若が名を授けた正規の奥方様候補。どのようなお家柄の出であられようが、奥方様に選ばれない理由は何一つない」
そう言って大老様は、ギロリと会場を睨みつけた。
「ですが大老殿!実際問題、雨花様が万が一にも若の奥方様になられたとして、柴牧家はどうなるのですか?柴牧家は、直臣第七位と言っても、実際は家臣を多数抱える一門でも一、二を争う名家。柴牧家の家臣共はみな、雨花様が柴牧家を継いでくださるものと考えていたはずですよ」
「我が家には、娘がおります」
父上が手を上げてそう言った。
「女に柴牧は継げまい!」
「それは柴牧家殿が一番わかっているはずだ!」
そんなヤジが飛びかうと、父上はスッと立ち上がった。
「万が一、雨花様が奥方様に選ばれれば、柴牧は娘婿に継がせるつもりです」
父上はそう言って、またその場に座った。
それを聞いて、会場内はまたざわざわし始めた。
『どこの馬の骨とも……』とか、『門外の人間が直臣を継げるわけが……』とか、そんな声が、切れ切れに聞こえてくる。
「娘婿を後継者にした例は、いくつもありますよ」
一際大きな声を上げた人のほうに、みんなが顔を向けた。
「北様……」
誰かがその人をそう呼んだ。
きた様……?北様か!北様って、直臣衆第一位の人のことだ!あの人が、直臣衆第一位……。父上を庇ってくれたって、こと、だよね?
「家臣団の皆さんは、柴牧の後継者を心配しているような口ぶりですが……私の耳に入った話は、そんな美しいものではなかったような……。ここでお茶を濁し、裏でおかしな噂に発展しても困ります。この際、思っていることを全て、はっきりおっしゃったらいかがですか?」
北様はそう言ってお茶をすすった。
何の話だろう?
「では言わせていただきますが!雨花様が万が一、若様の奥方様になろうものなら、パワーバランスが崩れるのでは?」
一人がそう言うと、周りが口々に『そうだ!』と騒ぎ立てた。
塩紅くんが言っていた話だ!直臣衆の家から奥方が出たら、権力を持ち過ぎるっていう……それ、でしょう?
「柴牧家は、家臣を多く抱える、影響力の大きい家柄。その家から鎧鏡一族を輩出するとなれば、柴牧家様の権力は、これ以上ないというほど甚大に……」
それを聞いて、父上が立ち上がろうとすると、隣にいた北様が、父上の肩にポンッと手を置いて座らせた。
「万が一、柴牧の権力が甚大になって何か問題でも?パワーバランス?よもや、柴牧が雨花様の権力を笠に着て、鎧鏡に仇なすとでもお思いですか?」
穏やかな声で北様はそう言うと、会場はまたシンと静まり返った。
「同門同士で権力過多だの、仇なすだの、ちゃんちゃらおかしーこと言ってんじゃねーよ」
「南、お前は黙っていなさい。話がややこしくなる」
南?あの口の悪い人が、直臣衆第二位の”南”様?
北様に制されて、南様は『へいへい』と、腕を組んでふんぞり返った。
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