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竜宮までのカウントダウン⑧
そのやり取りを聞いていた大老様が、静かに立ち上がった。
「雨花様は、間違いなく占者様がご選出なされたお方。占者様のお言葉は、サクヤヒメ様の御意思の写しだ。そのような理由で、雨花様を奥方様として迎えることを拒絶するとは、言語道断!」
大老様は、キッと家臣団さんたちを睨みつけた。
「そうはおっしゃいますが、大老様!雨花様が奥方様に決まるようなことがあれば、柴牧家様の権力が……という噂が、一門内に広がっているのは確かです。この噂が再び、鎧鏡一門存続の危機に繋がらないとも限りません」
そう発言した人は、座っている場所からして、家臣団さんだろう。
あの人が言っているのは多分、いつか母様が言っていた、お館様が昼行燈って噂されて一門の存続が危ぶまれたっていう、あの話だろうと思う。
「先程の北様の問いを、今一度聞く」
大老様がその人に向けて、人差し指を立てた。
「雨花様が若にお輿入れなさり、柴牧家様がさらなる権力を得たとして、我々一門に何の不都合がある?」
そう聞かれて、さっきの人はうつむいてしまった。
「柴牧家様は、すでにこれ以上ないほどの家臣も権力も金もお持ちだ。謀反を企てるなら今すぐ出来る。今やれるのにやらぬことを、なぜこの先企てようか?」
いちいさんも、今の大老様とおんなじことをいつか言ってた。
そこで父上が『ありがとうございます』と、大老様に頭を下げた。
父上……。
そこで、腕を組んで聞いていた北様が『しかし、おかしな話ですね』と、また父上の肩をポンッと叩いた。
「雨花様が若様にお輿入れなさることで得た権力を、柴牧がどのように振るうのが心配なのですか?一体みな、何を恐れているのでしょうね?御台様の御実家が、御台様の権力を利用して横暴な振る舞いをなさっていらっしゃる事実でも?」
北様がそう言うと、会場はまた静まり返った。
「では、冨玖院様の御実家が?」
その問いにも、誰も反応しない。
「そうでしょうね。私も聞いたことがありません。御台様方のご実家が、御台様の権力を利用し悪事を働く……今までそのような過去があったのなら、心配するのもわかります。ですが、そのようなことは今まで一度としてないのに、何故今回に限って、そのように過剰に心配なさるのか?」
その北様の問いに、南様が『もういいじゃねーか。柴牧は、んなことしねーってわかっただろ!』と、声を上げた。
「いいえ。今回の件、私は少々、腹に据えかねているんですよ。柴牧はこの場にいる誰よりも長く、直臣として御一族に仕えてきた人間です。その柴牧が、雨花様が奥方様に選ばれた途端、権力を振りかざすかもしれないなどというありえない噂に、この場にいることを許された人間が、踊らされたことにです」
空気がピシッと張り詰めたのがわかる。
「柴牧の人柄は、ここにいる者ならわかっているでしょう?飴玉一つでも誤魔化さず、みなに分け与えるような男です。柴牧は、権力を振りかざすような男ではありません。むしろ、権力すら分かち合うのが一門だと思っているような男です」
それを聞いて、直臣衆さんたちが笑いながら大きく頷いた。
父上は、キュッと口を結んで立ち上がった。
「鎧鏡一門の強さは、幸も不幸も分かち合い、互いを想い合うことで紡がれてきた強固な絆。大殿様より、そう教えていただいた。私に対する不信がそれを失わせると言うのなら、私はいつでもこの座を降りる。早くに父を亡くした私を、切り捨てずお育てくださった大殿様へ恩義を返したいという思い、幼き頃より兄弟のように接してくださったお館様への情愛は、肩書きを失くしたとて、決して私の中から失われることはない」
父上はそう言い切ると、静かに腰を下ろした。
すると『柴牧家様の代わりが務まるような者はいない!』『そうだ!』『柴牧家様が直臣を降りる必要など何もない!』というような、父上を庇う声がそこここで上がった。
「静まれ!」
大老様が立ち上がって、みんなを制した。
また会場が静寂に包まれた。
「わかって頂けたようですね。大老殿、柴牧のおかしな噂は、こちら側でどうにかしましょう。もともと根も葉もないものです。すぐに沈静化するでしょう」
北様がそう言って、にっこり笑った。
「ありがとうございます。北様にお任せします」
大老様は北様に頭を下げると『聞け』と、家臣団さんたちに体を向けた。
「ご一族をお守りするのは、直臣衆の仕事。家臣団がご一族に関して口出しするなぞ、越権行為。此度の件は、一家臣の意見として耳を貸していただいたまでのこと。家臣団としての身分をわきまえ、誇りを忘れず、己の職務を全うしろ」
大老様がそう言うと、家臣団さんたちはみんな一斉に、大老様に頭を下げた。
そのあと『よっしゃ!小難しい話はここまでだ!飲もうじゃねーか!』と、南様が手を上げると『おー!』と、会場全体が一気にまとまった。
そこで、皇が動画を停めた。
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