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竜宮までのカウントダウン⑨

動画を観ながら、カバンに入っていた手紙のことが頭に浮かんでいた。 オレは家臣さんたちからしたら、皇の嫁候補の前に、"直臣衆柴牧家の後継者"で、当然柴牧を継ぐだろうって、思われてるんだ。 そうだ、天戸井も、そんなこと言ってた。 柴牧家は、オレが継いで当然……。 「もしかしてあの手紙……オレは柴牧家の後継者だって、伝えるため?」 『柴牧家の後継者様』とだけ書かれていたあの手紙……。最初は父上宛ての手紙かと思ったけど、あれは間違いなくオレ宛ての手紙、だと思う。 学校の誰かがオレを心配して書いてくれて、紛れてカバンに入っちゃったなんて、能天気な代物じゃなくて……オレに、"お前は柴牧家の後継者だろ"って、それを伝えるための手紙……なんじゃ……。 「そうだろうと思う」 皇がそう言うと、いちいさんがその場で土下座した。 「私が雨花様にご報告しておりませんでしたのは、柴牧家の後継問題の噂のほうでございます。申し訳ございません。雨花様が昏睡状態から目覚められたあとあたりから、このような噂を耳にすることがあり……さらに、衆団会議にてこの話が出たことを、大老様より先月、ご報告いただいておりました。ですが、くだらない噂として、雨花様のお耳には入れないよう、みなに命じていたのです。手紙を見た際、その噂と何か関係があるのではと思ったのですが、確信出来るだけの証拠もなく……私のただの思いつきで、雨花様の不安感を無駄にあおるような話をしてはいけないと黙っておりました。隠し事をするような真似を致しましたこと、誠に申し訳ございません」 「いえ、オレがいちいさんでも、同じようにしたと思います。そこは全然、気にしないでください」 「ありがとうございます。……今回の件、一門内で流れていた、柴牧家の後継問題の噂と、何か関係があるのでしょうか?」 困り顔で皇にそう聞いたいちいさんに、皇は『先程、大老からこれを受け取った』と言って、一枚の紙を取り出した。 テーブルに置かれたその紙は、さっき大老様から、USBと一緒に渡されたメモだろうと思う。 「柴牧の運転手が倒れていた場所付近に、落ちていたそうだ」 その紙には、 ”柴牧家の後継者はご子息様 迅速な代替わりを助太刀します” と、書かれていた。 「どういう、こと?」 皇は『待て』と言って、携帯電話を取り出した。 どこかに電話をかけ『梓の丸だ』とだけ言って電話を切ると、いちいさんに『柴牧の後継問題と、此度の襲撃事件が繋がっておるのは確実と見る。くれぐれも雨花を頼む』と言って、いちいさんを部屋から出した。 「さっきの電話、誰に?」 「詠だ」 ふっきー? 「詠が参るゆえ、一位を出した」 「なんで、ふっきー?」 皇は、ふぅっと短く息を吐くと『余は……そなたのこととなると、判断が鈍る自覚がある。今とて、そなたを失うことになるのではと、そればかりが頭に浮かんで……真相を探るまでの頭が働かぬ。ゆえに、冷静に現実を見るだろう詠を呼んだ』と、苛立ちながら頭を掻いた。 「皇……」 そっと皇の手を握ると、皇は『離れに参る。詠はあちらから参るであろう』と、オレの手を引っ張った。 オレたちが離れの和室についてすぐ、ふっきーが縁側からこっそりと入って来た。 「柴牧家殿が襲われた」 「聞いておりますが……雨花ちゃん、知ってるんですか?」 「余の知る全てを話した。ああ、お前が知らぬであろうことが一つ増えた。柴牧の運転手が倒れていた場所の近くに落ちていた手紙だ」 皇はふっきーにさっきの手紙を見せた。 ふっきーは『そうですか』と、小さくため息を吐いた。 「詠、お前、此度の件、どう見る?」 ふっきーは、皇の問いに答える前に、オレのほうに膝を向けると『絶対雨花ちゃんには、若に輿入れしてもらうからね』と言って、大きく頷いた。 「え……」 皇に膝を向き直したふっきーは『この手紙を見る限り……普通に考えたら、雨花ちゃんに柴牧家を継がせたい輩が柴牧家様を襲ったってことでしょうけど』と、眼鏡を上げた。 「どうして父上を襲う必要があるの?!」 「うん。柴牧家様を襲って、バレないとでも思ってるのかね?まぁ、どうしても雨花ちゃんに柴牧家を継がせたいなら、そんな高リスクを背負ってでも、今やらないと手遅れになるかもしれないからね」 「手遅れ?」 「そう。雨花ちゃんが候補の今じゃなきゃ」 「え?」 「柴牧家様は、雨花ちゃんが奥方様に選ばれたら、柴牧家は娘婿に継がせるって言ってるんだよね?」 「うん。言ってた」 「でも雨花ちゃんのお姉さん、まだ結婚してないでしょう?もう決まった人がいるの?」 「……いない、と、思う」 「うん。普通に考えたら、柴牧家様はまだ引退なさらないだろうから、気長にお姉さんが結婚するのを待てばいいだろうけど……」 「うん?」 「万が一、今、柴牧家様に何かあって、今すぐ柴牧家を誰かが継がないといけないって事態になったら……誰が継ぐ?」 「え?誰って……」 はーちゃんは結婚してないし、決まった人もいない。 万が一、今すぐ柴牧家を誰かが継がなきゃいけないなんてことになったら、普通に考えて……。 「……オレ?」

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