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竜宮までのカウントダウン⑩

自分を指さしたオレに、ふっきーは『そう』と、頷いた。 「今すぐ柴牧家を誰かが継ぐってことになったら、雨花ちゃんが継ぐのが普通だって、家臣はみんなそう思うでしょ。雨花ちゃんは、若にとってたった一人の存在でも、家臣からすれば今はまだ、多数いる奥方候補の一人に過ぎない。ましてや、雨花ちゃんが奥方様になれば、柴牧の権力うんぬんなんて噂が立っている今、雨花ちゃんが候補を降りて柴牧家を継げは、全て丸く収まるって思う人は、少なくないと思うよ」 オレは……家臣さんたちから、皇の嫁には、望まれてない? 言葉を失ったオレの手を、皇がキュッと握った。 「少なくとも犯人には、柴牧家様を襲うなんて高リスクをおかしてまで、雨花ちゃんに柴牧家を継がせたい理由があるってことだね。どんな理由かは、犯人じゃないとわからないけど」 そう言って、ふっきーは困った顔をした。 どんな理由があるにせよ、オレに柴牧を継がせるために、父上が狙われたってことだ。しかもオレが皇の嫁になることは、家臣さんたちには、望まれて、ない。 うちの側仕えさんたちは、喜んでくれるはずだけど、それ以外の家臣さんたちは、みんなオレが柴牧を継いだほうがいいって、思って、る? 「オレが……柴牧を継ぐって言えば、もう父上は、襲われないで済むの?」 「それは……」 ふっきーの話を遮るように、皇が『そなたが柴牧を継ぐということは、余に輿入れせぬということ!そなたはそれを望むのか!』と言って、繋いでいた手を離した。 「な……」 そんなの望んでるわけないじゃん!だけど!……だけど! 「何だよ!バカっ!オレは!……お前のそばに、ずっといたいって、言ったじゃん!だけど!父上を狙った人は、オレに柴牧を継がせるために父上を狙ってるんでしょう?オレが柴牧を継ぐって言わないと、父上が……命を落とすかもしれないんだよ?!」 皇の袖をギュウっと掴むと、皇はオレを強く抱きしめた。 「お前と……一緒にいたいよ!だけど!それは、父上の無事と引き換えないといけないかもしれないんだよ?……お前といることと、父上の無事、どっちも望んだら駄目なの?オレは……どっちかなんて、選べない」 泣きべそをかいたオレの頬を撫でて、皇は『そうだな』と、優しい顔をすると『そなたはどちらかなぞ、選ばぬで良い』と、笑った。 「え?」 何……笑ってんの? 「余が鎧鏡の名を捨てる」 皇はそう言って、オレの頭に頬ずりした。 「な!……に、言って……」 「そなたが柴牧を継がねばならぬなら、余が柴牧の姓に入る。鎧鏡は伊右衛門にでも継がせれば良い」 「えっ?!」 そんな……何、言って……。 「余は……そなたに会うため、ここにおる。そなたが存在するこの世界を守るため、鎧鏡の当主を継ぐと心に決めた。家臣に望まれるまま、鎧鏡を継がねばと思うておった頃とは違う。鎧鏡を継ぐのは、そなたをこの手で守りたいがためだ。だのに……そなたをこの腕に抱けなくなるくらいなら、鎧鏡の次期当主という肩書きなぞいつでも捨てる。そなたが柴牧を継ぐのなら、余が柴牧に入れば良い。そなたが、余を娶れ」 驚いているオレの顔をじっと覗き込んだ皇は『鎧鏡次期当主ではない余では、駄目か?』と、心配そうな顔をした。 「……馬鹿!」 皇が鎧鏡の次期当主だったから、出会えたわけだし、次期当主として育ってきた皇のことが、好きに、なったんだけど……。でも、”鎧鏡次期当主”を、好きになったわけじゃない。”鎧鏡皇”を、好きになったんだ。 オレはお前の片割れって、お前、言ってくれたじゃん!オレがお前の片割れなら、肩書きなんて関係ないでしょう?お前が鎧鏡の次期当主だろうが、そうじゃなかろうが、お前はオレの、片割れでしょう?鎧鏡の次期当主じゃなきゃ駄目なんて、言うわけないじゃん!バカ! お前がいなきゃオレは……ずっと半分このまんまなんだよ? 皇を、ギュウっと抱きしめた。 「あの……」 「どわっ!」 背中のほうから、控えめな声のふっきーに呼びかけられて、飛び上がる勢いで皇から離れた。 ふっきーもいたんだったぁ! 恥ずぅっ!!

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