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竜宮までのカウントダウン⑪

「盛り上がっていらっしゃるところ、申し訳ないんですが……」 「なんだ?余は柴牧に輿入れする」 「はぁ。まぁ、そんな展開も面白……あ、いえ、いいですけど。こんなゴツイ嫁、柴牧家様のご迷惑にしかなりませんよ。そもそも、何で雨花ちゃんが、柴牧家を継がないといけない前提なんですか?」 「あ?」 「え?」 継がなくて、いいの?それでも父上、大丈夫なの? 「雨花ちゃんの望みを叶えるのが、若の望み……とか、聞きたくもな、あ、いえ……そんな話を散々聞かされた気がするんですけど、私の空耳だったんでしょうか?雨花ちゃんは、若の嫁になることも、柴牧家様のご無事も望んでるんですよ?若なら、どちらも叶えられる方法が何かありますよね?」 「お……」 皇は目が覚めたというような顔をして『そうだな』と、呟いた。 すごい!ふっきー!皇が何か、ヤル気出してる!さすが皇の未来の大老様候補! 「弱気発言で雨花ちゃんの気を引く作戦かと思ったら、違ったんですね。本当に若は、雨花ちゃんのことになると、ポンコ……あ、いえ……ね?」 ふっきー、笑ってごまかしたけど、完全にポンコツって言ったよね?今。 「まぁ、雨花ちゃんをどうしても若に輿入れさせたい!っていう人間が多数おりますので、若がどれだけ使えなかろうが、雨花ちゃんを奥方様にお迎え出来るでしょうが……若にはもう少し頭を働かせていただきたいものです」 「え?オレを皇の嫁にさせたいなんて思ってくれてる人、いるの?!」 オレが驚いた顔をすると『もちろん。天戸井以外の奥方候補、珠姫様、大老様……あと伊右衛門くんも』と、ふっきーは人差し指を立てた。 「中でも伊右衛門くんは、一番気合いが入ってて……」 「え?伊右衛門くんが?どうして?」 伊右衛門くんって、皇の弟、だよね?オレ、会ったことないのに……。 「若が鎧鏡を継がなければ、伊右衛門くんが鎧鏡の当主になるかもしれないからだよ。鎧鏡の当主は、同性の奥方様を迎えないといけないでしょう?でも伊右衛門くんは、好きな女の子がいるんだって。若が雨花ちゃんしか娶る気がないのは、身近な人間にはバレバレだから、伊右衛門くんはどうしても雨花ちゃんに、奥方様になってもらいたいんだよ」 「そう、だったんだ……」 そのバレバレ具合がオレにはわかんないけど……恥ずっ! 「そう。いつだったか、個人的に雨花ちゃんに護衛をつけようかなんて言ってたくらいだから」 「え?!」 そう聞いて、ぼたんの顔が頭に浮かんだ。ぼたんの主が誰か、未だにハッキリ聞いたことがなかったけど、もしかして、伊右衛門くん?! 伊右衛門くんは、言うなれば鎧鏡当主の継承権第二位を持ってるって、ことだ。そんな人なら、忍びの里の次期頭であるぼたんを使えても、おかしくないんじゃないの? 「ま、大老様が味方な限り、心配いらないだろうけど」 「え?」 「大老様は、目的のためなら手段を選ばない。大老様の目的が雨花ちゃんを若の奥方様にするってことなら、絶対そうなるよ」 「大老様……皇の嫁、オレでいいって、思ってるのかな?」 今まで大老様に、候補として歓迎されてるなんて感じたことは、一回もない。色々と守ってくれてたとは聞いたけど……。 大老様の目的は、オレを皇の嫁にすることじゃなくて、鎧鏡家を守ること、なんじゃないの?だとしたら、皇の嫁はオレじゃなくてもいいってことになる。だって皇が、大老様は、天戸井と塩紅くんに期待してたって、言ってたし……。 隣の皇を見上げると、キュッとオレの手を握った。 「大老様、雨花ちゃんのこと気に入ってると思うよ?おかしな心配をして、雨花ちゃん自身が若を諦めたりしないでね?僕としては、そっちのほうが怖いよ。ね?」 「……うん」 皇の手を強く握ると、皇は何かを言いたそうにオレを見て『詠』と、ふっきーを呼んだ。 「はい」 「今回の一連の件、一門の者が、企てたことと思うか?」 ふっきーは口を結ぶと『衆団会議の帰りを狙った犯行でしょうし、家臣内に柴牧家のおかしな噂が出てからの襲撃事件ですから……一門の人間が絡んでいるのは間違いないかと』と、頭を下げた。 皇は『そうであろうな』と、一瞬悲しそうな顔をして、じっとオレを見た。 「……何?」 その時、オレの携帯電話が鳴り出した。画面に、柴牧の母様の名前が出ている。さっきオレがした電話の返信かな?遅いよ! ふっきーは『どうぞ、出てください』と、促すように頷いた。 オレが電話に出ると、ふっきーは皇と何かを話したあと、オレたちにお辞儀をして、縁側から外に出て行ってしまった。 『あっくん?電話くれた?パパのこと?』 「そうです。父上、無事に戻りましたか?」 『ええ。今、お風呂。驚いたわよねぇ』 朝から外出していた柴牧の母様は、父上が襲われたことを、ついさっき聞いたばかりだと言った。で、『パパがそんなことで、ママを置いて死ぬわけないじゃない!』と、高笑いをした。 ……強っ!

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