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竜宮までのカウントダウン⑬
12月14日 晴れ
襲撃事件から、二週間が経ちました。
あの父上襲撃事件からオレは、ほぼ軟禁……みたいな状態だ。シロの散歩も含めて、屋敷の外に出ることをやんわり止められ、朝から晩まで高遠先生の授業を受ける日々が続いている。
お館様が父上の警護を強化してくれたそうで、あれから父上も、父上の周りも、平穏そのものだそうだ。
あの襲撃事件については、犯人が一門の人間である可能性が高いということで、警察には届け出ず、一門の自警組織である『護群 』が動いていると、陣中見舞いという名目で様子を見に来てくれたふっきーから教えてもらった。
だけど、大老様自ら陣頭指揮を取っているにもかかわらず、”犯人探し”は、今のところ何の進展もないそうだ。
皇は最近、自由にオレに会いに来られないと、会うたびボヤいている。あの事件の日から、昼間は大老様の仕事に同行させられ、曲輪に戻れば駒様がそばにいるそうで……。
駒様はそれはもう徹底して、皇のそばを離れないでいるらしい。オレへの正式な渡りの時ですら、皇と一緒に部屋に入って、皇が帰るまでずっと部屋の片隅に立っている。
他の候補様たちへの渡りの時も同様とのことで、今までのように、梅ちゃんや誓様への渡りの日に、抜け道からオレのところに来ることも出来ないと、皇は溜息を吐いた。
それでも、毎日オレのところに寄ってくれるけど……。
気持ちが通じた日から、あの襲撃事件が起こるまでは、結構な時間を一緒に過ごしていた皇が、顔を見る程度であっという間に帰って行ってしまうのは、ちょっと……寂しい。
父上が襲われて、その犯人が見つかっていない今、皇といちゃいちゃするのは罪悪感がわくから、顔を見るだけで、全然いいん、だけど……。
いいんだけど……ちょっと、その……物足りない、とか……思っ、たり……。
キスくらいは、その……する、けど、それだけで……。このまま犯人が見つからなかったら、いつまでこんな日が続くんだろう。
渡りの皇と一緒に来て、部屋の隅に立っている駒様に、オレにも何か出来ないかと聞いたら『雨花様のご無事を家臣みなに示しておいてください。それが雨花様にしていただきたいことです。どうかくれぐれもお一人で行動なさいませんように』と、暗に、”何もしてくれるな”と、釘を刺された。
そんなこんなで、犯人を早く探して、これ以上の犯行を食い止めようと意気込んでいたオレも皇も、犯人探しには、参加出来ないでいる。
犯人は見つからず、何も起こらないままの二週間が経ち、ピリピリした空気感もだいぶ緩んできた気がしていた。
このまま何もなかったみたいに、日常に戻っていけるのかもしれない……そんな風に思いながら夕食を終え、部屋に戻って高遠先生の授業を受けるための準備をしていると、机の上に置いてあった携帯電話が、振動で着信を知らせた。
すぐに電話を手に取ると『サクラ』と、画面に表示されている。
サクラとは普段、メッセージアプリでやり取りをしていて、直接電話で話すことはそうそうない。何があったんだろう?と、思いながら電話を取ると『ばっつん?!お姉さん、大丈夫?!』という大声が、電話から響いて、思わず耳を離した。
「サクラ?何?」
『ばっつんのお姉さん!大丈夫?!』
「え?」
お姉さんって……はーちゃんのこと?
はーちゃんが大丈夫か?って……何が?
『あれ?連絡ない?柴牧葉暖さんって、ばっつんのお姉さんじゃないの?って!あ!ばっつんのお姉さん、イギリスか?あ、ごめん!人違いみたい』
「え……ううん。姉上、今、日本にいる、けど。え?何?姉上が日本にいたら何?」
『え?でも、知らないんだよね?連絡ないなら別人だね』
「待って、サクラ!何の話?」
"しばまきはのん"なんて名前、そうそういるわけない。
嫌な予感で、心臓がバクバク言い始めた。
『さっき生徒会の仕事を手伝ってる時に、大学部の北門のすぐ前に通り魔が出たから、今は帰るなってお達しがあったんだ。生徒会室に閉じ込められてる間に情報漁ってたら、病院に運ばれただろう人の中に、柴牧葉暖さんって名前が出てきて、驚いてばっつんに電話しちゃったんだけど……。でも、すでにSNSでそんな風に名前が出てるのに、ばっつんちに連絡がないなら、きっとお姉さんじゃないよ』
サクラが言ってる”ばっつんち”に、今オレはいない。
間違いなく、はーちゃんだ。はーちゃんが、通り魔に、襲われた……?
柴牧の家に連絡はいってるんだろうか?こっちにもすぐ連絡が来る?そんなことより、はーちゃんは無事なの?!
「オレ……今、家にいなくて……きっとそれ、姉上だと思う!詳しく教えて!」
父上が襲われた日のことが頭をかすめて、吐き気が込み上げた。
サクラは通り魔って言ったけど、犯人はそんな無差別的にはーちゃんを襲ったんじゃなくて……はーちゃんだってわかってて、狙ったんじゃ、ないの?
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