521 / 584
竜宮までのカウントダウン⑯
「あ!オレ!姉上のところに行きたくて!」
そうだ!シロに、姉上のところに連れて行ってもらおうと思っていたのに、なんでこんなことになってるの?!急がないと姉上が危ない!
「ああ、シロガネはこの曲輪から出れば、ただの犬だ。お前を乗せて空を駆けることは出来ない。……この説明をさせるためだけに、私を呼んだのか?」
シシさんはシロをギロリと睨み上げて……るんだろうけど、てんで可愛い。シシさんは、いつか見たCGアニメの猫みたいに、表情が変わる。
っていうか、シロ、この曲輪以外では飛べなかったの?!
「ただ、お前の姉は心配いらないそうだ。シロガネがそう言っている」
「えっ?!本当ですか?!」
「ああ」
シシさんは、シロの口に頬ずり?すると『お前の姉は守られていると、シロガネが言っている』と、頷いた。
「良かったぁ」
「一位も無事だと伝えろと、シロガネが言っている。他に聞きたいことはあるか?コガネがいれば話が通じる……と、シロガネが言っている」
シロとシシさんが頬ずりっていうか、顔を擦り合わせるのは、どうやら会話をしているらしい。
はーちゃんといちいさんの無事がわかって安心した今、目の前の大きな犬と小さな猫が、スリスリし合っている様子は、もう動画を撮っておきたいくらい可愛らしくて癒される。
どうしてシシさんは話せるのに、シロは話せないのか聞くと『番が共に地上に降りる時、出来ることを分かち合うのだ。シロガネが出来ないことは私が出来、私が出来ないことはシロガネが出来る。この地上で私たちは、互いが揃わねば半人前だ』と言って、シシさんはシロの足に擦り寄った。
半人前なんて言ったシシさんは、何だか嬉しそうに見える。
そんなシシさんを見て、”余の片割れ”って皇に言われて、嬉しかった気持ちを思い出した。
半人前なんて、一見不便そうな自分も、そうなったのは大事な人と分け合ったから、なんて理由なら……なんか……いいよね。
シロは、オレに言葉が通じなくて困って、シシさんを呼んだらしい。シロとシシさんは、お互いのいる場所には、行き来出来るそうで……。
オレもそんな風に、皇のところに行けたら……って!
「オレ、部屋に戻らないと!」
皇に会いたいとか思ってる場合じゃない!
あっという間にはーちゃんといちいさんのところに行って、誰にも知られないうちに帰ってくる予定だったのに、曲輪の中にいるとはいえ、部屋から一人で出たのがバレたら、大変なことになるかもしれない!
どこにも行けなかったけど、一番知りたかった二人の無事はわかったわけだし、すぐ部屋に戻らないと!
シロに乗って帰れば、目をつぶっているうちに部屋にいるだろうけど、シシさん、さっき久しぶりにシロと会った……みたいなこと、言ってたよね。それって、シロが最近ずっとオレの部屋にいてくれたから、かも。
「オレ戻ります。シロは……あ、シロガネさんは、シシさんと久しぶりに会ったんでしょう?ゆっくりしてきてください」
「いつものように”シロ”でいい。地上ではただの犬だ。普通に話せ……と、シロガネが言っている。私のこともシシと呼ぶがいい」
シシさん……いや、シシはニヤリと笑うと、オレの足元にタタッと駆け寄った。
「シロガネのハラナカ。しばしシロガネを連れて行く。礼に、私からお前に守護の印を授けよう。お前はシロガネが”守るべき者”ではなく、”守りたい者”のようだからな」
シシはそう言って、オレの中指に、チョンっと口を付けた。
「え?」
守護の印?って何?中指は何も変わってないけど……。
「さぁ、行け」
シシはタンッ!とシロの背中に飛び乗った。
「あ、うん!ありがとう!」
守護の印が何かはわからなかったけど、オレはシシとシロにお礼を言って、部屋に向けて走り出した。
「雨花様っ!」
「あ……」
さっき出てきた窓からこっそり部屋に入ろうと手をかけたところで、窓の内側から、勢いよくさんみさんが顔を出した。
み、つかって、た!いやいや、でもオレ、ほら!無事ですから!
「ごめんなさい!あの……ちょっと……シロの散歩に……」
ひょいっと窓から部屋に入ると『お一人で行動なさらないよう、駒に伝言させたはずですが、聞いていらっしゃらなかったようですね』と、顔をしかめた大老様が、目の前に立っていた。
「はっ!……え……」
何で大老様が?
「このように重大な伝え忘れがあったとは、駒には相応の責任を取らせねばなりません」
大老様はさんみさんに『駒を呼べ』と、命じた。
「いえ!駒様からは、ちゃんと聞きました!駒様には何の落ち度もありません!オレが、勝手に……」
大老様はため息を吐くと、おろおろしているさんみさんに『一位はどこだ』と、苛立ちながらそう聞いた。
ともだちにシェアしよう!