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竜宮までのカウントダウン⑱

大老様は『どれだけの危険を冒されようが、雨花様は我々が何よりも守るべき若の奥方様候補です。雨花様をお守りするのに、どれだけの人間が、どのような思いで、どれだけの時間をかけて動いているか……一度ご熟考頂けますと、梓の一位の働きも浮かばれることでしょう』と、小さく息を吐いた。 「え?」 いちいさん、が? 「梓の一位が葉暖様の護衛に仕込んでいた者が、葉暖様を庇って怪我をしたとのことです」 「えっ?!」 やっぱり!はーちゃんを庇ってケガをした阪寄さんって、うちの家臣さんだったんだ! いちいさんが仕込んだ? いちいさんがはーちゃんに護衛を付けてくれてたの?! 「一位は今、その護衛が運ばれた病院におり、これからこちらに戻って来るそうです。護衛の怪我の程度は重くなく、葉暖様のご無事も一位自身が確認し、葉暖様は安全な場所で匿ってもらうことになったと、今の電話で報告を受けました」 「あ……ありがとう、ございます」 いちいさんが、はーちゃんに護衛をつけてくれてた……そこまで考えてくれていたいちいさんが、オレの考えなしな行動の責任を取って解任なんて……オレがどうにかしないと! 「あの!いちいさんを解任になんて……」 大老様は、オレの言葉を途中で遮って『雨花様』と、口を開いた。 「……はい」 「柴牧家様が襲われた件は、秘密裏に処理するつもりでおりました。柴牧家は直臣第七位であり、鎧鏡次期当主の奥方様候補である、雨花様のご実家でもあります。その柴牧家の人間が襲われた事実が表に出れば、鎧鏡一門の統制が崩れていると、一門内外に宣伝しているようなものですので」 「え……」 「ですが……本日の件は、白昼堂々の犯行。雨花様が我々よりも先にご存知だったことでも分かるように、葉暖様が襲われたことは、すでに世間の知るところであり、もう隠すことは出来ません」 「……」 それがどういう意味を持つのか……深刻な顔をしている大老様を前にして、オレの頭ではよく理解出来ず、ただ大老様の次の言葉を待って、黙り込むしかなかった。 「先日……駒に何か出来ることはないかと、お尋ねになったそうですね。雨花様に、していただきたいことがございます」 「えっ?!何ですか?!」 この状況で、オレに出来ることがあるなら何でもする! 大老様は、オレの前で床に膝をついて頭を下げた。 「曲輪を……出ていただきたいのです」 「え……」 それって……候補を……降りろって、こと? 大老様が『どうか、ご自分の意志で曲輪を出るとおっしゃってください』と、もう一度深く頭を下げたちょうどその時、開けっ放しだった部屋のドアから、皇が入って来た。 「今、何と申した?!」 「……雨花様には、曲輪を出ていただきたく存じます」 「ならぬ!」 皇は、大老様から庇うように、オレの目の前に立った。急いでここに来たのか、息が荒い。 皇の背中は大きくて……オレの視界から大老様の姿が消えた。その途端、急に涙がせりあがってきた。 肩を大きく揺らすほど息を切らしているくせに、皇は『雨花を曲輪から出すなぞ許さぬ!』と、大老様に一気にまくしたてた。 「雨花様はお一人で、葉暖様のもとに行くおつもりだったのですよ?そうですね?」 大老様のその言葉を聞いてオレのほうに振り向いた皇に『ごめん』と小さく謝ると、大老様は『自ら危険に飛び込むようなお方を、曲輪に置いてはおけません』と、きつい口調でそう言った。 「雨花を曲輪から追い出すのなら、余は鎧鏡なぞ継がぬ!鎧鏡は伊右衛門に継がせるが良い!」 「なっ……」 オレは、オレを守るように立っている皇の背中から、言葉を失った大老様の前に飛び出して、皇と向かい合った。 「雨花?」 「それはダメだよ!」 「あ?」 「お前が鎧鏡を継がないなんて、そんなのダメだよ!」 「何を……鎧鏡の当主なぞ、そなたを守るための手段の一つに過ぎぬ!余の願いはそなたと共にあることだ!そなたが曲輪を出るのなら、余も共に参るまで!前にも言うたはず!」 強い口調なのに、泣きそうに見える皇の手を取った。 「うん。そう言ってくれたけど……。でもお前は、鎧鏡を継がなきゃ。今までどれだけの人が、お前を鎧鏡の当主にするために、大事に育ててきてくれたか……。お前が次の当主だから、安心してくれてる家臣さんたちの信頼とか……そういう、お前のことを大事にしてくれてるみんなの気持ちを、オレのために裏切って欲しくない」 「だが……」 「父上が言ってただろ!」 「……」 「直臣衆って肩書きがなくなっても、大殿様やお館様を想う気持ちは変わらないって。オレも……奥方様って肩書がなくたって……お前への気持ちは、変わらない」 口をギュッと結んだ皇は、オレの手を強く引いて、胸に抱きしめた。 「ごめん……オレ……はーちゃんが心配で……考えなしで……ごめん」 皇は『そなたは、余の片割れ』と、オレの頬を撫でた。 「余は……雨花以外娶らぬ!」

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