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竜宮までのカウントダウン㉑
帯締めと一緒に、父上からもらった守り刀もカバンに入れながら、冷蔵庫に目がいった。
「これ、持って行ったらダメかな」
さすがに冷蔵庫は無理だよなと、笑いながらそう言うと、皇は『ああ』と言って、冷蔵庫から、プラチナのプレートを取り出した。
今年の誕生日に皇にもらって、チョコレートのプレートと一緒に保管しておけって言われた、You areとだけ彫られているプラチナのプレートだ。
皇はプラチナのプレートを持ったまま廊下に向かって『誰ぞ!』と叫んだ。
すぐに顔を出してくれたさんみさんに、小声で何かを伝えてプレートを渡すと、オレのところに戻ってきて『あのプレートであれば、冷蔵庫ごと持たずとも溶けることはなかろう』と、笑った。
「プレート、どうしたの?」
「あのプレートに、途中までしか入れられずにおった言葉を彫らせるよう命じた。しばし待て」
「何て言葉?」
ニヤニヤ笑いながらそう聞くと、皇は『そう時間はかからず出来上がるであろう。待っておれ』と、オレの鼻をつまんだ。
その瞬間、皇がオレの頭をクンっと嗅いで『そなた……匂うな』と、顔をしかめた。
「えっ?!臭い?」
「いや、そうではない。いつもとは違う……シロ?のような……」
「シロ?……あ!」
オレは、さっきシシに会ったことを皇に話した。シシの話っていうか……最終的には、さっきは危険をおかしてまで外に出ようとしたんじゃないって、言い訳みたいになっちゃったけど……。
皇は、はーちゃんが襲われたって聞いて、さっきオレのところに急いで来てくれたんだそうだ。
もう二度と、あんな考えなしで危険なことはしないと言うと、皇は『余が連絡先を教えておらぬのも悪かった』と、携帯電話の番号を教えてくれた。
皇の番号!めちゃくちゃ嬉しい!
そのあと、他に持って行ったほうがいい物はないか、部屋の中を探していると、机の中からサクラにもらった大量の修学旅行の写真が出てきた。
それを見ながら、こんな写真、部屋に飾ってたらダメなんじゃないかと皇に聞いたら、いつもは静生さんたちとの集合写真を上にして飾っていて、あの時は、オレが写真立てを落とした拍子に、静生さんたちの写真が抜けてしまったようだと、どこかバツの悪そうな顔をした。
「何?変な顔して」
「そなたには、見られたくなかった」
そう言ってむくれた皇を見て、思い切り吹き出した。何それ?可愛いんだけど!
むくれる皇に、静生さんの写真が見たいと言うと、携帯に保存してあると言って、見せてくれた。
「あ、衣織とどっか似てるね」
「他人ではないゆえ」
「そういえば、伊右衛門くんとお前は似てるの?」
「伊右衛門は、余の幼き頃に似ておるらしい。そなたは、姉上殿とよう似ておるな。……此度の件、姉上殿が無事で、誠、良かった」
「うん。……あ、ねぇ!皇は、はーちゃんを助けてくれた阪寄さんって家臣さん、わかる?」
「あ?」
「阪寄さんって、いつもお祝いの時は、必ず何か贈ってくれるから、名前は覚えてたんだけど……顔はわかんなくて。皇、わかる?」
皇は驚いた顔をしたあと鼻で笑って『そのうち会うこともあろう』と、オレの頭を撫でた。
……何?何か今、含んだ笑い方した!
文句を言おうとすると、コンコンコンっとドアをノックする音が響いた。
「はい!」
「若様、ご用意出来ました」
外から聞こえてきたのは、さんみさんの声だ。
皇はオレから離れて急いでドアを開けると、さんみさんから何かを受け取り、大きく頷いた。
さんみさんがお辞儀をして扉を閉じると、皇はさんみさんから受け取っただろう箱を持って、ソファに戻ってきた。
皇の手に乗った小さな箱を開けるように言われ、スルッと蓋を持ち上げると、中には銀色のプレートが入っていた。
誕生日に皇にもらった、プラチナのプレートだ。
プレートには英語で、
『あおば あなたは私のもの 私はあなただけのもの すめらぎ』
と、彫られていた。
「あ……」
「刻む言葉は、決めておった。だが、刻めばそなたに、気持ちを打ち明けることになる。ゆえに、刻むのをためらっておった。……これを持って行け」
皇は、ネックレスに仕立てたプレートを取って、オレの首にかけようとした。
「これ、足りない」
「ん?」
動きを止めた皇が眉を寄せた。
オレはお前のもので、お前はオレだけのもの、なんて……。
「オレだって……お前だけのものだろ!」
皇の胸に飛び込むと、その勢いで皇は、オレを抱きしめたまま、後ろに倒れこんだ。
「……そうだな」
オレの目尻を撫でる皇の指が、あったかくて、泣きそうになる。
零れそうなオレの涙を拭った皇に『そなたが戻ったら、もう一度彫らせる。それで良いか?』と、嬉しそうな顔で聞かれたので、小さく頷くと、皇は、オレの首にプレートをかけた。
「余だけの……青葉」
皇は、オレのこぼれた涙を追うように、頬に、キスをした。
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