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true colors①

この”竜宮”は、もともとその昔、島流し用に使用されていた島で、周囲は断崖絶壁、脱出することはもちろん、上陸するのも、今では空からしか出来ないという。 そんな大老様の説明を聞きながら、竜宮の中心あたりにあるという屋敷に、歩いて向かった。 船や飛行機が近づかないよう、特殊な磁界を形成しているこの竜宮では、携帯電話や通信機器は使えないそうで、緊急事態の時は、屋敷の中にある固定電話の受話器を持ち上げるようにと、大老様がいちいさんに説明していた。 その固定電話が、島と外との唯一の通信手段で、受話器を上げると、大老様のところに直接繋がるようになっているから……と。 そんな話が聞こえてきたので、自分の携帯電話を取り出すと、画面の上のほうに、圏外と表示されている。せっかく皇の携帯電話の番号を登録したのに、皇と携帯でやり取り出来るのは、いつになるんだろう。 月明りを頼りに、砂利道を恐々進んだ。 オレたちを屋敷まで案内し、屋敷の中をざっと説明した大老様は、高遠先生と残りの荷物を運んでくると言って、あっという間に出て行ってしまった。 「先生がいらっしゃる前に、中をもう少し詳しく見ておきましょうか」 いちいさんがそう言って歩き出すと、ふたみさんは『私は厨を見ておいても良いでしょうか。食材や調味料がどれだけ揃っているのか気になりますので』と、さっき大老様が、キッチンだと言っていた部屋のほうを指した。 「ああ、わかりました。では、雨花様と私で、部屋割りをしておきましょう」 にっこりしながら階段を上り始めたいちいさんの後ろをついて行った。 二階には寝室がいくつかあって、その中で一番大きなベッドがある部屋をオレの部屋に、その隣の、シングルベッドが二つ並んだ部屋が、いちいさんとふたみさんの部屋になった。 高遠先生の部屋は、いちいさんたちと逆側の、オレの隣の部屋だ。 リビングとダイニング、トイレの場所とお風呂の場所を確認して、最後にキッチンを見に行くと、ふたみさんが『調味料の品揃えは申し分ないですね』と、そこらじゅうの戸棚をパタパタと開けながら興奮していた。 「雨花様、おなかがすいていらしたのでは?」 そうふたみさんに聞かれて、急におなかが減り始めた。 「あ、はい。減りました」 「今夜はとりあえず、高遠先生と一緒に運ばれてくる食材待ちですね。ここはそこまで大きくない島のようですから、周りが断崖絶壁とはいえ、魚が釣れるポイントもあるかもしれません。あとで大老様に確認してみます」 ふたみさんは『釣りが出来るようなら明日から新鮮なお魚料理が出来るんですけどね』と、嬉しそうだ。 釣りが出来るなら一緒にしたいという話をしていると、梅ちゃんのところでやった釣り大会の話になって…三人でそんな話で盛り上がっていると、バリバリバリ……と、大きなプロペラ音が聞こえてきた。 大老様が戻ってきたんだと、外に出てみると、さっきよりも大きなヘリコプターが、今まさに降りようとしているところだった。 「雨花殿、大変でしたな」 ヘリから降りた高遠先生は、大きな黒いバッグを重そうにぶら下げて、顔をしかめながらそう声をかけてくれた。 「先生、すいません。こんなところまで……」 「いや。曲輪にいるより、集中して勉強出来そうだ」 高遠先生は、真っ暗な空をくるりと見渡すと『何より、雨花殿を惑わす若がいらっしゃらない』と、笑った。 すぐに勉強を始めるように、いちいさんが言ってくれたけど、ヘリに積んできた荷物を、みんなが何往復もして屋敷に運ぶのを見て、勉強していられず、手伝わせてもらった。 食材など、日持ちのしない物は、大老様か大老様付きの家臣さんが、この先何日かごとに、竜宮まで運んできてくれるという。 「ここは、大海に浮かぶ孤島ですので、生態系が独特らしいです。危険な生物がいないとも限りません。雨花様はもとより、先生もお前たちも、くれぐれも一人で行動しないように」 大老様は、リビングにオレたちを連れていくと、暖炉脇に飾ってあった猟銃を一丁取り出した。 「すでに弾はこめてある。一位、使えるな?」 「はい。二位も猟銃は使えます」 「そうか。何かあれば使え。弾はその引き出しに入っている」 「はい。かしこまりました」 猟銃?! え?生態系がおかしいって、猟銃を使わないといけないような、そんな生物がいるってこと?! オレ……狙われるかもしれないってことで、ここに連れて来られたんだよね?猟銃を使わないといけないような生物がいるなら、曲輪にいたほうがまだ安全だったんじゃないの?

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