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true colors③
夕飯は、遠慮するいちいさんとふたみさんも無理矢理同席してもらって、四人で食卓を囲むことにした。
夕飯を食べながら高遠先生に、父上が襲われるまでのことやら、はーちゃんが襲われたことなんかを説明した。
先生は、オレが万が一奥方様になったら、父上が権力を持ちすぎるなんていう噂は、今では全然聞かなくなったと教えてくれた。
皇に見せられた、先月の衆団会議の動画で、南様が、父上に関する噂はどうにかするって言ってたけど……本当にどうにかしてくれたってこと?!すごい!
「そういえば、いちいさんのさだめって……」
急に、大老様が言っていたことを思い出して、いちいさんを見ると『あ』と、動きを止めた。
「大老様の言っていたこと、本当なんですか?」
いちいさんは、奥方様に仕えるさだめを持ってるって、言ってたこと……。
いちいさんはお箸を置いて『本当です』と、頷いた。
で。
いちいさんの"さだめ"について、話してくれた。
鎧鏡家の家臣で要職に就く者は、小さいうちに占者様に選ばれ、招集されることが多いのだという。
それは、ふっきーからも聞いていたので知っている。要職予備軍に選ばれた家臣さんたちには、小さいうちに"青紙"と呼ばれる封書が届き、その職に就くための訓練をさせられるって。
青紙の存在は、鎧鏡一族と幹部たち、それから、青紙を受け取った人とその家族くらいしか知らないらしく、他の人に話してはいけない決まりがあるそうだ。
その青紙招集された鎧鏡一門の中でのエリートとも言える人が、梓の丸には何人もいるらしい。
いちいさんと……ふたみさん?むつみさん……あたりは、多分そうだろうと思う。その道のトップになる人だって、聞いたことがあるから。
誰が青紙招集組なのかは、何となく聞いたらいけない気がして聞かなかったけど……もしかしたら、他にもいるのかもしれない。
いちいさんは、小学校に入るか入らないかの年で青紙招集され、側仕えをまとめる職に就くための教育を徹底的に施されたそうだ。
そんな中、いちいさんはある日、母様に呼び出され、奥方様に仕えるための教育を受けるようご宣託が下った、という、占者様からの手紙をもらったんだそうだ。
そんな話をしていると『と、いうことは……奥方様は雨花殿で決まりということか』と、高遠先生に言われて、あ!と、思ったオレの横で、いちいさんが『はい』と、にっこりしながら、大きく頷いた。
……う。言っちゃっていいの?
ま、先生だし。隠すこともないか。
「そうかそうか。やはり奥方様に選ばれるお方は、華と品がある。雨花殿は言うまでもなくだが……あのお陽殿でさえ、見た目は酷かったが、ふとした時に、華やかさと育ちの良さが出ておったもんだ」
「見た目が酷いって、先生。か……あ、御台様は見た目もきれいじゃないですか」
「生まれ持っての美醜じゃないよ。お陽殿は、到底奥方様には選ばれないだろうってなりだった。金髪で。そこら中に穴を開けて」
穴?……ピアス、かな?
「お陽殿で決まりと聞いた時には、冨玖院様が困っていらしたもんだ」
高遠先生は、ふっと笑った。
「冨玖院様、反対なさってたんですか?」
母様はよく、未だに冨玖院様にダメ嫁呼ばわりされるって言ってたけど……。
「いやいや。可愛がっていらしたが、あの見た目じゃなぁ」
「えっ?!」
可愛がってた?
「ああ、お陽殿から何か聞かされたか」
「あ……よく、ダメ嫁って言われるって」
先生は、それを聞いて大笑いした。
「ダメ嫁には違いない!」
「高遠先生」
いちいさんに咎めるように呼ばれて、先生は『ああ、すまない』と、また笑った。
「出来の悪い子ほど、可愛いって言うだろう?」
母様は、すごく立派な御台所様だと思う。家臣さんたちみんな、そう言ってるし……。
先生にそう言うと『あそこまでよく成長なされたものだよ』と、また大笑いした。
「お陽殿が最初から上手く出来たのは、拷問術くらいだったからな」
「拷問術?!」
大笑いしている先生は『拷問術も、鎧鏡の奥方様として必要な知識の一つだ。医者になられてからは、お陽殿の拷問術に磨きがかかったと聞く。雨花殿も将来有望だ』と、さらに笑った。
拷問術が、奥方様として必要な知識?!
家臣さんたちが、母様のことを怖いって言ってる理由って……それ?!
「お陽殿の拷問にあって、口を割らなかった者はいないと聞くからな」
「まっ!」
マジですかぁ?!
皇も、母様に歯を折られたって、言ってたし……。お館様は、殴られるのが上手だとか、母様、言ってた。
母様が聞き上手なのって、お医者さんだからだと思ってたけど……口を割らせるのが上手いから……だったり、して……。
っていうか!
皇の嫁になったら、オレも、そんなことする日が、来るってこと?!
……。
……。
……。
いや!無理!無理だから!
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