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true colors⑤

恥ずかしくなって『先生、ご結婚は?』と、聞くと、先生は『さてな』と、とぼけた顔をした。 「え……じゃあ、いちいさんは?」 この、おかしな男だらけの恋バナの流れに乗って、すごく聞きたくて聞けなかったいちいさんの恋愛事情を、ついでに聞きました風にさらりと聞けたんじゃないの?これ! いちいさんと松の一位さんが付き合ってるのか、とにかくずーっと気になってたんだ。 「えっ?!」 すごくびっくりしたいちいさんの隣で『一位様は……』と、ふたみさんが口を挟むと『二位!』と、いちいさんが急いで止めに入った。 やっぱり教えてくれないかぁ。 「決まった相手はおりません」 「そう、なんですか?」 松の一位さんと付き合ってるっていうのは、ただの噂なのかなぁ? 「雨花様、何か知っていらっしゃるんですか?」 ふたみさんがニヤニヤしながらそう聞くので、思い切って松の一位さんと付き合っているという話を聞いたと言うと、いちいさんは食い気味に『それはありません!』と、強く否定した。 「でも、樺の一位さんが言ってたじゃないですか。松の一位さんは、いちいさんのことがお気に入りって」 「あ、あれは……」 言いたくなさそうな顔をしたいちいさんに、オレは『はい、あれは?』と、話を促すようにそう聞くと、いちいさんは観念したように『その昔、一位になるための修行中に、樺の一位と松の一位と……その……色々とございまして』と、言ったきり、そこから『その』とか『あの』とか、ごにょごにょしていて、何があったのかさっぱりわからない。 オレが首を傾げると、ふたみさんが『ご本人からは言いづらいでしょうから、私がご説明申し上げます。早い話が、三角関係ですよね。樺の一位様が、うちの一位様をいたく気に入っていらしたそうで。何度も誘っていらしたそうなんですが、毎回、松の一位様に邪魔されて、とうとう諦めたそうなんですよ。ね?一位様』と、いちいさんに確認した。 「ざっくり言うと……そうなるのかもしれませんが……樺の一位に、気持ちを打ち明けられたわけではありませんし」 「やっぱり、松の一位様とお付き合いなさって……」 「いません!一位は、候補様をお守りする要の職です。そのような、浮ついたことをしている場合ではありません」 「でもオレ……いちいさんにも、個人的に幸せになってもらいたいです」 「雨花様……」 涙目になりそうないちいさんの横で、ふたみさんが『うちの一位様は個人的にもすでにお幸せだと思いますよ?』と、笑った。 「いちいさんが幸せなら、オレ、良かったです」 「雨花様……ありがとうございます」 いちいさんは、大きく頭を下げた。 「オレ……樺の一位さんのこと、怖いなって思ってたんですけど、その話を聞いたらちょっと緩みました」 そう言って笑うと、いちいさんは『樺の一位は仲間思いで気遣いの出来る優しい人ですよ?』と、にっこり笑った。   「あ!どこの一位さんも厳しそうですけど、杉の一位さんは、ほんわかしてそうですよね?」 杉の一位さんは、うちのいちいさんと似た雰囲気だなぁって思ってたんだよね。 いちいさんは『あ』と、どこか躊躇うような顔をすると『私が一位として、幼いころから共に学んだのは、松の一位と樺の一位だけで、杉の一位に関しては、そこまでよく知らないのです』と、意外なことを言った。 「えっ?!そうなんですか?」 「ええ。桐の一位と杉の一位は、公募で選ばれたと聞いております」 「公募で選ばれて一位職に就くとか、相当優秀ってことですよね?」 ふたみさんはそう言うと『でも』と、少し口ごもった。 「何ですか?」 「杉の一位様のご実家は、オハナ……という噂が……」 「二位」 いちいさんは、ふたみさんを咎めるように首を振った。 「オハナって……なんですか?」 「一門の中の俗語です。雨花様はご存知なくて良いことです」 いちいさんがそう言うと、高遠先生が『雨花殿は奥方様になるお方。一門の影の部分も、知っておく必要があるんじゃないか』と、ちらりといちいさんを見た。 「影の部分?」 先生は『梓の一位は雨花殿に対して過保護過ぎる。隠しておいても、いずれ耳に入ることもあるだろう。間違った情報として入るよりも先に、正しい知識として知って頂いたほうがいいんじゃないか?』と、腕を組んだ。 いちいさんはしばらく考えて『わかりました』と、口を結んだあと『影の部分というのもどうかと思いますが』と、顔をしかめた。 「どういうことですか?」 「オハナというのは、正式名称ではありません。一門の誰が言い始めたかわかりませんが、女人禁制の鎧鏡一門にあって、女性が家業を継いでいる一族を、そう呼ぶ者がいる、ということです」 「えっ?!」 鎧鏡一門の中に、女性が家業を継いでいる家があるの?そんなの、駒様から教えてもらってないよ?

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