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true colors⑧

「曲輪はそんなでしたけど、雨花様は、こちらにいらしてからどうなさってたんですか?毎日、お勉強ですか?テレビもないし、携帯も通じないですよね、ここ」 あげはは携帯電話を確認しながらそう聞くと、お菓子を選び始めた。 「ほとんど勉強だけど、この島にも結構詳しくなったと思うよ」 ここに着いた翌日から、いちいさん、ふたみさんと一緒に、勉強の息抜きも兼ねて、島の中をそっちこっち探検して歩いた。 猟銃が必要になるかもしれないと大老様に言われたのもあって、初日は外に出るのが怖かったけど、実はふたみさんが、サバイバルに関する資格をいくつも持っている、サバイバルマスターだと聞いて、安心してついて行くことにした。 ふたみさんは、サバイバルの仕方をコーチする資格も持っているという。ほんわかした料理人だと思っていたふたみさんに、そんな一面があることを知ってものすごく驚くと、ふたみさんは『いついかなる時も、お仕えする方に安全かつ美味しい料理を食べていただく……それが我々、鎧鏡一門の賄い方(まかないかた)の理念です』と、にっこり笑った。 普通なら、曲輪勤めの料理人であるふたみさんがサバイバル……なんてことにはならないだろうけど……実際今オレ、無人島生活なんていう普通じゃない状態なわけで……。 ふたみさんは『生きているうちに、サバイバル術を披露する機会が訪れるとは思いませんでしたけどね』と、また笑った。 ……ですよね。 ふたみさんは、ありとあらゆる食に関する資格を有しているという。だから猟銃も扱えるし、いざっていう時は、そこらへんにある物で、衣食住の全てを何とでも出来るという。 改めて、一門の使用人さんたちが、いかにすごいかってのを思い知った。 そんなこんなで、島はおおよそ一周したと思う。猟銃を使わないといけないような、そんな危険はないらしいこともわかった。 ここに着いてからの十日間、島の中を探索するふたみさんは、ものすごく生き生きしていた。 島の端はどこも断崖絶壁で、オレがいる時は、オレの安全のためにってことで釣りはしなかったけど、いつの間にかふたみさんが、新鮮な魚を釣ってきてくれたってことが、何度かあった。 梅ちゃんのところでした釣り大会に、確かふたみさんは、料理をする魚を自分で釣ることもあるから……とかいう理由で、一緒に出てくれたと思うんだけど、まさかこんなにすごい人だったなんて!何なら、釣りが趣味だっていういつみさんより、総合的には釣り上手なんじゃないの? そんな話をするとあげはが『五位さんの釣り好きも、二位様と似たり寄ったりな理由ですよね?』と、首を傾げた。 「え?似たり寄ったり?」 「はい。五位様、訓練のためにヤエイをする中で釣りにハマったって、おっしゃってましたよ?」 「訓練のやえい?って、何?」 「え?キャンプみたいなヤツですよね?」 あげはがいちいさんに確認するように視線を向けたので、オレもいちいさんを見ると、いちいさんは気まずそうな顔で、視線を泳がせた。 キャンプみたいなやえいって……”野営”ってこと? 「野営って……いつみさんが?」 なんで? 「はい。よく行ってらっしゃいますよね?五位様」 同意を求められたいちいさんは『はぁ』と、あいまいな返事をした。 「いつみさんが、何で?」 「え?ゴグンの訓練なんじゃないですか?」 「ごぐん?」 ごぐん……ごぐん……あ!護群!鎧鏡の自警組織の名前だ。え? 「いつみさんが何で護群の訓練に?」 「え?護群だから、ですよね?」 「は?」 いつみさんが護群? ぱっといちいさんに視線を向けると、いちいさんは小さくため息を吐いた。 「あげは……護群は、鎧鏡一門の自警組織です。護群の構成員は、その性質上、護群に属しているということを軽々しく明かしてはならない決まりがあります。護群に属しているという話は、五位本人から聞いたのですか?」 「あ……ボク、いずれ護群に入りたいって、みんなに話したことがあって……それで五位様が、こっそり教えてくださったんです。雨花様は、ご存知かと思ってました」 「ここでは問題ありませんが、他所で五位の話をしてはなりませんよ?」 「はい。気をつけます」 しゅんとしたあげはの頭を『大丈夫。オレも絶対誰にも言わないから』と、ポンっとすると『はい!』と、あげはは元気良く返事をした。 あげはがいつみさんから聞いた護群の訓練は、サバイバル訓練と実戦訓練があわさったもので、とにかく過酷らしい。 あげははいつみさんから『お呼びがかからないなら志願なんかしないほうがいいぞ』と、護群入りをやんわり止められたそうだ。 そんな訓練の中で、いつみさんは釣りに楽しさを見出したらしく、趣味になっていったらしい。 ふたみさんもいつみさんも、どうりで釣りが上手いはずだよ。命がけの釣りを知ってるんだから。

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