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true colors⑨

もうすぐ夕飯かな……なんて話をしていると、ドンッという大きな音が、外から聞こえてきた。 驚いて外を見ると、いつの間にか嵐のような様相になっている。 空を割るような稲光のすぐあとに、ゴロゴロという音が聞こえてきた。さっきの大きな音は、雷が近くに落ちた音だったのかもしれない。 「近くの木にでも落ちましたかね。電気は、大丈夫そうですが……」 いちいさんがホッとした顔をしたすぐあと、今度はキッチンのほうで、ガタン!っと、大きな音がした。 今度は落雷の音じゃない! ふたみさんが雷に驚いて、何かを落とした、とか、かな? 小走りでキッチンに向かったいちいさんのあとを追うと、キッチンにふたみさんの姿がない。 キッチンの奥にあるトイレのドアの前で、いちいさんは立ち止まって『二位?』と、伺うように、トイレの中に呼びかけた。 トイレから聞こえてくる声や音で、中で誰かが吐いているだろうことがわかった。 「ふたみさんっ!?」 「二位!開けますよ!」 いちいさんがトイレのドアに手をかけた時、少し遅れてきた先生が『下がってなさい』と、オレたちを下がらせて、トイレの中に入って行った。 急にどうしたんだろう?さっきまでふたみさん、元気だったはず。本当は具合が悪かったの?そんな素振りを見せなかっただけ? そう思っているといちいさんが『さっきまで元気だったのに』と、ぽそりとつぶやいたので、オレも『そうですよね!』と、思いきり同意した。 「私たちが知らぬ間に、体調を崩していたのか……もしくは、この夕飯に、何か問題があったのか……」 そう言っていちいさんは、目の前に置かれている、作り終わっているらしい夕飯に視線を送った。 「え?」 「ふたみは、毒見役も担っております。私どもより先に、夕飯に口を付けているはずですが……あのふたみが、食中毒を起こすような物を調理するとは思えません」 そうだよ!ふたみさんはなんてったって、サバイバルマスターなんだから! 少しすると、高遠先生に抱えられるように、顔色を失っているふたみさんがトイレから出てきた。 「ふたみさん!」 「曲輪に戻してもらったほうがいい。詳しい検査がここじゃ無理だ。感染症の恐れもある。迎えが来るまで、隔離する。特に、ぼたんにあげは、近づくんじゃないよ」 高遠先生は、ふたみさんを支えるようにして、”診察室”に向かって行った。 「すぐに大老様に連絡致します!」 いちいさんはリビングに走って行って、屋敷に一台しかない電話の受話器を取った。受話器を取るだけで、大老様に繋がるはずだ。 受話器を耳に当ててすぐ、いちいさんは、電話のフックを何度かカチカチと押した。 「繋がらないん、ですか?」 いちいさんのその動きは、電話が繋がらないって、言っているようなものだ。 「……はい。どうして……こんな時に……」 「さっきの落雷が関係あるんでしょうか?」 「ああ!そうかもしれません。高遠先生に相談してきます。リビングでお待ちください」 いちいさんは、急いで診察室に走って行った。 「二位様、大丈夫でしょうか?」 あげはは心配そうに、診察室のほうを見ている。 「大丈夫。高遠先生がついてるから」 そうは言っても、オレもものすごく心配だった。いくら高遠先生がすごいお医者さんだとしても、こんな、設備の整っていないところで……っていうか、電気はついているのに、電話が通じないってことは、使えない医療用具もあるかもしれない。ふたみさん、大丈夫なの?! あげはとぼたんと無言で待っていると、いちいさんがすぐに戻って来た。 「ここと連絡が取れなくなっていることを、大老様が気付いてくださるのを待つしかないだろうと……。あとは、次にこの島に食料を届けに来てくれるのを待つ他ないようです。次回、誰かがこちらにいらっしゃるのは、普通に考えて三日後、あたりでしょうか」 「ふたみさんは、それで大丈夫なんでしょうか?」 「ふたみの詳しい検査は、やはりここでは出来ないそうですが、先生がおっしゃるには、今日運ばれてきた食料の何かに、問題があった可能性もあるとのことで……。ひとまず、何とか曲輪に戻れるまでの数日間、対症療法で様子を見てくださるそうです」 「……そうですか」 ふたみさんは、今はもう吐き気がおさまって落ち着いてきているという。ふたみさんが苦しんでいないなら、とりあえずは良かったけど……。 「今日運ばれてきた食料が食べられないってこと、ですよね?」 あげはが心配そうな顔で、いちいさんにそう聞いた。 いちいさんは『そうです』と、頷いた。 「じゃあ、次に食料が届くまで、ボクたち何も食べられないって、ことですか?」 「いいえ。ふたみいわく、この島の食料だけで、一か月は生きていけるそうですよ?」 いちいさんは、そう言って大きく頷いた。

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