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true colors⑩

「自給自足って、ことですか?」 「そうですね。ふたみが倒れているので、少し心配ではありますが、ここに着いてから毎日、ふたみから、島で食べられる物についてレクチャーを受けました。大丈夫でしょう」 「ここに五位様がいたらなぁ」 あげはは大きなため息をついた。 「ああ、そっか」 いつみさんは、梓の丸二人目のサバイバルマスターだもんね。 「無人島にいらっしゃるなら、最初から五位様をお連れしたほうが良かったんじゃないですか?」 「ああ、そうですね」 なんだかいちいさんは、歯切れが悪い。 いつみさんは、梓の丸で一番の武闘派で、護群の幹部候補生らしいと、あげはがこっそり教えてくれた。もしかしたらいつみさんも、青紙招集組なのかもしれない。 「でも五位様、ここのところ大学が忙しいとかで、お屋敷にいらっしゃらないんです。だから、どっちにしろ無理だったかも。あ!だったら六位様でも良かったかも」 あげはがそのあとも、さんみさんがいてくれたらこうだっただろうとか、しいさんがいたらこうだったとか、そんな話を続けていると、ぼたんが『嵐が去れば、曲輪と連絡が取れるかもしれません』と、頭を下げた。 ぼたんの話では、ぼたんの一族は鳥を使うという。ぼたんも自分の鳥を持っていて、普段はぼたんの実家にいるそうなんだけど、ぼたんの危機を不思議と察するらしく、何かあれば、どこからともなくやって来るらしい。 何、そのヒーローみたいな鳥!会ってみたい! 『来てくれるかはわからないですが』と言うぼたんに『ぼたんがもっと困ったら来るんじゃない?』と、あげはが笑うと、いちいさんが『はいはい、冗談はそのへんで。今夜はひとまずこれでも食べて、早めに寝ることにいたしましょう』と、お菓子を出してくれた。 袋に入っているお菓子なら大丈夫だろうけど、こういうお菓子類は、あまり運ばれていないらしい。 お菓子の残りは少ないので、明日、嵐が抜けたら、外に食料の調達に行こうという話をしたあと、先生から、ふたみさんは容態が安定して今は寝ていると聞いて、みんな安心して各々の部屋に入った。 部屋のベッドの上で、携帯電話を取り出したけど、何度見ても圏外の表示は変わらない。 携帯電話のボタンを押して、何度も皇の番号を表示させた。 オレのピンチは、絶対わかるって言ったのに……。 そう思った時、外の風の音が大きくなった。 空からしか入れないこの竜宮に、こんな嵐の中、来られるわけがない。むしろ来ちゃダメだ。 ベッド脇の優しいオレンジ色の光を放っているライトの電源を消そうと思って、ふと電気が通じていることに改めて気付いた。 電気系統は大丈夫そうなのに、あの電話だけが通じない。そんなこと、ある? 「……」 ふたみさんが倒れる原因になった食料を運んできたのは大老様で、使えなくなった電話は、大老様だけに繋がっている。 「まさか……」 皇に、大老様を信じるって言ったのはオレ自身なのに、大老様を疑おうとしてる。 だって……オレが柴牧を継いで、オレじゃない人が皇の嫁になったほうが、ゆくゆくはそのほうが皇にとって幸せだって、大老様は思っているかもしれない。 大老様から、歓迎されていると感じたことは一度もない。今回の一連の事件だって、オレが皇の嫁候補じゃなかったら起きなかった。オレは大老様からしたら、面倒で困った候補、なんじゃないの?オレがいないほうが、皇にとっていいって、大老様が考えても、全然おかしくない。 オレに何かあっても、皇の”嫁候補”はたくさんいる。皇が、嫁はオレしかいないなんて言ってくれたことは、梓の丸のみんなくらいしか知らないことだ。オレに何かあったって、鎧鏡一門的には、何の問題もない。 オレは、大老様や家臣団さんたちに弱い皇を知ってる。オレ以外、誰も嫁にしないなんて言ったって、家臣さんたちに、どうしてもオレじゃない候補を嫁に選んで欲しいって頼まれたら、皇は……。 不安が不信感を生むって……いつか大老様が言ってた。 ……本当だ。 オレは不安で……皇の気持ちすら、疑おうとしてる。 「……」 皇の写真を見ようと、携帯電話の写真フォルダーを開いてみた。 そこに、自分では撮った覚えのない動画があることに気が付いた。 「え?」 ここのところ、携帯で動画を撮った記憶がない。 何かのウイルスだったらどうしようと思ったけど、ここは電波も通じていないんだし大丈夫だろうと、一分程度の短い動画を再生した。 画面はずっと真っ暗で、何か、小さい音だけが録音されているようだ。 スピーカーの音量を大きくして、もう一度再生すると、何だかわからなかった”音”が、皇の声だとはっきり聞き取れた。 『青葉……愛しい、青葉』 皇……。 スピーカーから流れてくる、何度もオレを呼ぶその声に、涙が溢れて……枕に顔を押し付けた。 「会いたい。……会いたい」 会いたいよ!バカ!

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