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true colors⑪
どれだけ繰り返したか……皇の声だけが聞こえる、映像のない真っ暗な動画を、何度も、何度も再生した。
いつ撮ったんだろう?オレは全然覚えがない。オレが勝手に撮っちゃってたのか、皇が撮ったのか……。
理由はどうあれ、今、これに気付いて良かった。
「皇……」
皇には……オレしかいない。
たぶん、オレ以外誰も知らない、皇のオレを呼ぶ甘ったるい声を聴いて、もう一度、”皇に選ばれた自分”を、信じることが、出来たから。
12月24日 晴れ
世の中は、クリスマスイブ。昨日の嵐が嘘みたいな、快晴です!
ふたみさんが心配なのと、風の音のうるささによく眠れなかったけど、それでも何かしら吹っ切れた気分の朝だった。
もう、誰に対する不信感もない。全て信じるって、決めたから。
窓から見える空は快晴で、いつかみたいに吐き気に襲われるかと思ったけど……学祭の時、吐きそうになったオレを抱きしめてくれた皇の体温を思い出したら、吐き気よりも恥ずかしさのほうが大きくて……もう真っ青な空を見ても、大丈夫だと思えた。
いちいさんの準備が整ったら、とにかくすぐに食料調達に行こうと、すぐに着替え始めた。
昨日の話だと、食べても安全だと思われるお菓子は残り少ない。
ぼたんの鳥くんが来るのが先か、大老様が気づいてくれるのが先か……。
ふたみさんの容態は心配だけど、とにかく今は、当面の食料の確保をして、みんなと一緒に安心したいと思った。
いちいさんは、オレが着替え終わったのを待っていたかのように起こしに来てくれた。
いちいさんが何か言う前にオレは、まずは食料の調達に行きましょうと、いちいさんに提案した。
少し考えた様に黙ったいちいさんは、それでも何の反論もせず『そうしましょうか』と、オレの提案に乗ってくれた。
あげはとぼたんも誘って行こうと、二人の部屋をノックすると、ぼたんが顔を出して、あげはがまだ寝ていると言うので、オレはいちいさんと二人で外に出ることにした。
いちいさんはリビングで立ち止まると『少々お待ちください』と言って、暖炉脇の猟銃を取り出して、ガンホルダーにセットすると颯爽と背中に担いだ。
……かっこいい!
「使う機会がないとは思いますが……念のために」
そう言って、いちいさんは引き出しから掴んだ予備の弾をポケットに押し込んだ。
竜宮に着いてから毎日、みんなで島を探検しながら、あれは食べられる、これは食べたらいけないって話を、ふたみさんからちょいちょい教えてもらってきた。
オレでも島のどこらへんに行けば食べられる物があるか、ぼんやりわかる。
オレより熱心にふたみさんの話を聞いていたいちいさんには、明確に食料のありかがわかっているようだった。
「この先が釣りスポットらしいですが、私は釣りがどうも苦手で……」
いちいさんが眉を下げた。
「竿があれば、オレが釣りますよ?」
「昨日の嵐で、海はまだ荒れているようですし、そうでなくとも断崖絶壁で危険らしいですので、魚は諦めましょうか」
「わかりました。あげはじゃないですけど、いつみさんがいたら良かったですね。いつみさんがいつも日焼けしてるのって、釣り焼けかと思ってたら、訓練焼けもあったんですね」
「ああ、ええ」
いちいさんは、いつみさんの話になると何だか歯切れが悪い。
気になったので思い切って聞いてみると『護群の素性は、明かしてはならない決まりですので、五位が護群だという話は、どうにも気が引けまして……』と、小さくため息をついた。
『オレ、絶対誰にも言いません。いや、つい出ちゃうといけないし、普段から護群の話はしないようにします』と言うと、いちいさんは『そうしていただけると助かります。護群に関しましては、鎧鏡の警備の最重要事項ですので』と、にっこり頷いた。
「もう少し行ったところに、ガマズミの実がなっていたと思います。その周りに山菜もあったはずですので、天ぷらにでも……。あ、小麦粉は無事だといいのですが……」
「ダメでも実がありますから。この時期に、食べられる実のなる木があって助かりましたよね」
「本当ですね。ガマズミは、本州あたりですと、もう落ちている頃らしいですが……あ!」
「え?」
「昨夜の嵐で、実が落ちていないといいのですが……」
「あ……」
「落ちてしまったかもしれないと思うと、無性に食べたくなりますね」
心なしか、さっきよりも歩く速度を上げたいちいさんのあとをついていくと、前方に、真っ赤な実をたくさんつけたガマズミの木が見えてきた。
「ああ、良かった!嵐でも落ちなかった実です。受験生の雨花様のゲン担ぎには、うってつけですね」
「あ、本当ですね!おなかいっぱい食べないと」
いちいさんと二人、笑いながらガマズミの実を摘んだ。
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