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true colors⑱

しらつき病院の屋上から、いちいさんとふたみさんを病院に運んだ。 二人はそのまま入院することになり、入院手続きを終える頃、さんみさんが病院に来てくれた。 その頃にはもう、いちいさんの意識はハッキリ戻っていて、ふたみさんの体調不良も、ずいぶん良くなっていた。 いちいさんの意識の混濁も、ふたみさんの体調不良も、何かしらの薬物によるものじゃないかってことだったけど、それを特定するには、まだ時間がかかるということだった。 曲輪に一旦戻ろうというところで、駒様が息を切らしてやって来て、皇が途中だったという点滴を、急遽しらつき病院でするようにという、母様からの”命令”を伝えてくれた。 皇は必要ないとしばらくごねていたけど、オレがそばで見張っていると言ったら、あっさりベッドに寝転がった。 それを見て駒様は、病室を出て行った。 皇の点滴が落ちるのを見守りながら、さんみさんから、はーちゃんを襲った犯人と、竜宮でオレたちを襲ったあの男の素性を、今、大老様たちが詳しく調べているという話を聞いた。 実行犯の二人は、一門の人間ではないようで、そうなら裏に必ず、一門の人間が関係しているだろうと、大老様が真の犯人探しをしているという。 いちいさんとふたみさんの病室を整えに、さんみさんが出て行ってしまうと、皇は『安全が確保されるまでそばを離れるな』と、オレの手を強く握った。 「詠にも調べさせておる。島で捕らえたあの男の正体がわかれば、これまでの襲撃事件の全容が見えてこよう。一つ一つの事件に、何の繋がりもないというほうが無理がある。必ずどこかで繋がるはずだ。すぐにわかると思うておったが、未だ分からぬとは……。よほど周到に準備されていたものか、もしくは、他に何か裏があるか」 「……」 「どう致した?」 「全ての事件が繋がってるなら、今までの全部……大老様が言ってたように、やっぱりオレをお前の奥方様にさせないため……だよね?」 父上とはーちゃんが襲われたのは、柴牧家をオレに継がせたい人が起こした、柴牧家のお家騒動かと最初は思ってたけど、竜宮でオレが襲われたことで、そうじゃないことがハッキリした。オレを後継者にって望んでくれてるなら、オレを襲うわけがない。 一連の事件は、オレを皇に嫁がせたくない誰かが起こしたものだと考えるのが、一番スムーズだ。 オレに柴牧家を継がせて、候補から下ろそうとしたけど、父上もはーちゃんも無事だったから、直接オレを狙いに来たってこと……なんじゃないの? 次期当主の嫁候補を狙うなんて発覚したら、どうなるか……それがわからなかったわけじゃないだろうに、そこまでして、オレを皇に嫁がせたくない誰かがいるってことなんじゃないの? 目を伏せると、皇はふぅっと大きく息を吐いて『雨花』と、力強くオレを呼んだ。 「此度の事件の理由がどうあれ、そなたに対する余の思いを、誰にも変えることは出来ぬ」 「……」 「そなたを娶ると決めたのは、何かや誰かのためではない。余の望み、それだけだ。そなたへの思いは、どれだけ邪魔立てされようが、余自身とて止められぬ」 オレの手を握る、皇の手に力が入った。 「そなたは違うか?余と離れがたいと申したあの言葉、此度のことで……変わったか?」 変わるわけない!お前と離れて、オレがどれだけ寂しかったか……。 そんなことを言う皇にムッとして『そうなら今、点滴してるお前のこと、ボーっと見てるわけないだろ!』と、ギュウっと手を握り返した。 「でも……お前とこうしていることで……オレはこんなに嬉しいのに……誰かは傷ついているのかもって思ったら……。お前の大事なもの、全部守りたいのに、オレが……お前の大事な家臣さんを……傷付けてるかもしれないって思ったら……どうしたらいいか、わかんないじゃん」 「……」 「だけど……お前と離れてるの……すごく、怖かった。お前が大事にしている家臣さんたちを傷付けたくないのは、本当だけど……だけど……自分からお前と離れるとか……もうオレ……出来ない」 皇は、泣きそうになったオレの手を引いて、ベッドに横たわる自分の胸に、オレの頭を抱き込んだ。 「おかしなことを聞いた。すまぬ。だが……安堵した。そなたは、そうそう言葉にしてはくれぬからな」 皇は、ギュウっと抱きしめる腕に力を入れた。 「此度の件、余の嫁候補を狙ったものと見る。そなただから狙われたわけではあるまい。そなたは余の片割れ、余の幸だ。余の幸いを喜ばぬ家臣なぞおるものか。誰を嫁に選んだとて、初めから皆が皆、納得するものではあるまい。だが、そなたが余の幸いの源とみなに伝えて参れば、いずれ必ず、そなたは家臣みなの幸いとなる」 「……なれる、かな」 「ああ。余と嫁が睦まじくあれば、家臣もみな安心致す。お館様と御台殿もそうであろう?」 「うん」 「必ずそなたを嫁に迎える。そなたでなければ、お二人のようにはなれぬ。そなたはそこにおるだけで、苦しいほどに余を喜ばせる。ゆえに、何かを憂いて余と離れねばなぞ、決して考えるな。そなたの憂いは必ず消すゆえ……余を、一人にするでない」 抱きしめる腕の力を弱めて、皇はオレの顔を覗き込んだ。 ボロボロ涙を零すオレの顔を見て、皇は笑って、オレの涙を拭ってくれた。 「この体勢では、これ以上そなたに近付けぬ」 そう言って、皇の指が、オレの唇をなぞった。 相変わらずやつれた顔で、もうすぐ終わりそうな点滴を、うらめしそうに見つめた皇に、オレのほうから、キスをした。

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