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true colors⑳
あげはから聞いたぼたんの容態は、オレが安心するに十分な内容だった。
ここに運ばれて、母様がぼたんを診てくれたという。相当量の出血があったのは確かだけど、命に別状はないそうだ。
『こんなことでぼたんを死なせませんよ』と、あげははにっこり笑った。
あげはの正体を知った今、その言葉はものすごい説得力がある。
ぼたんはまだ目が覚めていないみたいだけど、オレたちは、ぼたんの病室に向かった。
ベッドの上で、規則正しく安らかな寝息をたてているぼたんの姿を見て、心底安心した。さっき、どんどん顔色を変えていくぼたんを目の前にして、オレはただ怖がっているだけで、何も出来なかった。
ぼたんは、いつも体を張って、オレを守ってくれている”恩人”なのに。
「オレ……絶対医者になる」
万が一、またこんなことがあったら、オレが必ず、ぼたんを助ける!ぼたんだけじゃない。いちいさんも、ふたみさんも……大事な人みんな、オレが助けられるように。
にこりと頷いたあげはが、何かを思い出したように『あ』と声を上げた。
「何?」
「雨花様が、お医者さんになるって、決めた時のことを思い出して……」
そう言って、あげははぷふっと吹き出した。
「え?」
オレが医者になるって決めた時?
確か……年中行事に参加して倒れた時、じゃなかったっけ?おかしな夢を見て……起きたあと、その夢と同じシチュエーションになって……医者になるって言った皇の代わりに、オレが医者になるって、決めたんだ。
いや、夢の中で皇は、医者になる!じゃなくて、パンになる!とか言ってたけど……。
「皇がパンになるとか言っちゃう夢で……」
「うえっ?!なんであげはが知ってるの?」
「あの夢、僕がそばにいたから、雨花様に見せちゃった予知夢っていうか……予知夢?じゃないか。未来を、夢として見せちゃったっていうか……」
「ええっ?!」
そんなこと出来……あ、出来るのか。皇が『占者殿は夢を渡る』とか、言ってたっけ。
オレがサクヤヒメ様のところに行ってるとき、占者様がオレの夢の中っていうか、意識の中に……っていうのかな?シロを送ってくれて、オレを目覚めさせてくれたんだった。
この目の前のあげはが、まさしくその占者様、なんだよね。
このかわいらしいあげはが、鎧鏡一族もひれ伏す、鎧鏡一門の守りの要、占者様だなんて……。
本当に?あげはを目の前にすると、自分で導き出した正体なのに、あげはが占者様だなんて、どうしても信じられない。
だって目の前のあげはは……てんで”あげは”なんだもん。
「あの時ボク、すごくおなかがすいてて」
そう言うと、あげははまた吹き出した。
「すっごくパンが食べたかったんです。その気持ちが、雨花様の夢に干渉しちゃったみたいで」
そう言ってあげはは、ゲラゲラ笑いだした。
「パンになるってなんだよ!うわぁ……って思ってたんですけど、それでも雨花様の思いが、ちゃんとした方向にいってくれて良かったです」
そんな風に話すあげはは、いつもより大人っぽく見えた。
本当に、占者様なんだなぁ。
オレが知らないうちに、占者様として、オレを導いてくれていたんだ。
「あ!そういえば、どうしてオレの小姓さんになってくれたの?」
占者様について詳しく知ってるわけじゃないけど、誰か一人を守るための存在じゃないのは、わかってる。占者様は、鎧鏡一門の平和を祈ってくれてる人のはずだ。
それなのに、何でオレのところに?
「んん……ボク、子供だったんです」
「へ?」
いや、今もてんで子供だよ?え?ちょっと待って!見た目こんなかわいいのに、実は100歳越えてるんですとかいう、また鎧鏡さんちお得意の、日本昔話的なヤツじゃないよね?!
「ちょっと、ムキになっちゃって」
「え?」
「皇が展示会で雨花様を選んだあと、家臣共が、雨花様に桃紙を送ったのはボクの間違いじゃないか、なんて言ってるのを聞いちゃったんです」
あげはは口をとがらせて『皇の嫁選びはボクだって命がけなのに、間違うとかあるわけないじゃないですかぁ』と、最後には頬を膨らませた。
オレも同じ話を聞いてしまったことがある。あの時、皇が今のあげはと同じように、占者様が間違えて選ぶことなんかないって、否定してくれたっけ。
改めて、オレが桃紙を受け取ったのって、本当に間違いじゃなかったんだ。
「だけど、間違えてないって証明出来るものもないし……なんていうか自分でも、間違えたかな?とか弱気になってきちゃって……。でも、雨花様で間違えてない!自分の目で確かめてやる!って思い立った時、ちょうど皇が、雨花様に湯殿係は付けるな!とかダダをこねてたもので、湯殿係の代わりに、ボクとぼたんを梓の丸に入れろ!って、皇にお願いしたんです」
入れろ!って、あげは……それ、お願いっていうか、もう命令だよね?
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