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true colors㉑
いやいや、それよりも!あげは自身も、オレを選んだことを不安に思ってたってこと!?
「オレを選んだの、本当に間違ってなかった?」
「答えは出てるじゃないですか」
にこーっと笑ったあげはは『感謝しろよ?』と、皇にどや顔をした。
皇は『ありがとうございます』と、あげはに深々頭を下げた。
……慣れない!全然慣れない!この感じ!
それから、あげはに今までの話を色々と聞いた。
あげはは、今まで裏でオレに……っていうか、オレと皇に、たくさん手を貸してくれていたらしい。
たとえば、皇とオレが最初に仲良くなるきっかけになった席替えも、偶然ではなくて、あげはが力を貸してくれていたとか。どうやったかは教えてくれなかったけど。
オレの家出事件の時に、シロのところまで導いてくれたのも、やっぱりあげはだったし。でも、聞けばあの時、実際は母様のところに連れて行きたかったみたいだけど。
オレたちのために、サクヤヒメ様からご宣託がおりた……なんて嘘も、何度かついたと、あげはは屈託なく笑った。
確かに、おかしなご宣託だなって、思ったことがあった!
「そんな嘘ついて、サクヤヒメ様に怒られないの?」
「サクヤはそんなことで怒りません。ボクがどうして嘘を吐いたか、その理由もわかってるし。嘘つきなボクのことも受け止めてくれてるから」
サクヤヒメ様を、サクヤって呼んでるー!
ますます、あげは=占者様って図式が、オレの中で固まってきた。
「オレが知らないところで、いつもオレのこと、守ってくれてたんだね。本当にありがとう、あげは」
「ボクがしたかったから、そうしたんです。最初は、自分の能力を確信するために近づいたんですけど……今は雨花様のおそばに行くことを決めた、あの日の自分を思いっきり褒めてやりたいって思ってます」
「本当?」
「はい。雨花様の小姓として生活するようになって、ボク、ドラマとかアニメの登場人物になった気分で、すっごく毎日が楽しいんです!嫁を選ぶってだけなのに、こんなスポーツ漫画みたいな展開になるなんて、思っていませんでした」
「スポーツ漫画?」
どこが?
「雨花様も皇も、弱くて全然ダメダメなところからスタートしたじゃないですか?で、ライバルが現れて、嫌なことを言われたりされたり。それに立ち向かって戦って、強くなっていって。お互いを信じられなくなったり、ケンカしたりしながら、どんどん信頼し合って惹かれ合っていって。なんていうか、そういうのがバディ物のスポーツ漫画とか、バトル系漫画みたいだなって思ってたんです。雨花様が強くなったのは、技とか体じゃなくて、メンタルですけどね」
あげははそこで、また吹き出した。
「真剣に向き合うと、何でもスポ根漫画みたいな展開になるもんなんですね」
「オレは、日本昔話みたいだなってずーっと思ってた」
そう言って笑うと、あげはもケラケラ笑った。
「……あげはが、ここから何度も逃げようとしたオレを、いつも引き戻してくれてたんだね」
「逃がしませんよぉ。他の候補、みんな面白くないですもん」
「そんな理由?!」
あげはは『そうですよ。ボクは何でも、面白いか面白くないかで決めてますから』と、楽しそうに笑った。
「そうじゃないヤツが多いですけどね。シロとか」
名指しー!
「そういえば……シロと仲悪いって、本当?」
「ボクがサクヤと仲いいからって、勝手に妬いてるんです、あの駄犬」
「あ……」
この『ダケン』って響き!サクヤヒメ様のところで聞いた!ダケンって何のことだろうって思ってたけど、あげはがシロのことを”駄犬”って言ってたのか!
「え?」
「ううん。シロは駄犬じゃないよ」
「雨花様にとっては、そうかもしれませんけど、ボクからしたらただの駄犬です。シシがいなきゃ、何一つまともに出来ないし」
「そんなこと言うけど、あげはとシロで、オレのこと一緒に助けてくれたじゃん」
そう言うと『あ、そっか』と呟いたあげはは『ボクも一人じゃ何も出来ない駄人間でした』と、笑った。
シロやあげはみたいな存在だって、誰かの力を必要とすることがあるんだ。でも、そんな完璧な存在じゃないシロやあげはだからこそ、オレは二人が大好きで……。
オレも、色んな人の力を借りて、ここにいる。今まで、そんな自分じゃ全然ダメだって思ってたけど……。
「一人じゃ何も出来ないから、いいんだろうね」
そうだ。
助けてくれる人がいて、助けてあげられる人がいる。
だから、オレは”ここ”が、大好きなんだ。
あげはは『そうですね』と、ふふっと笑った。
「占者様って、仙人みたいな人かと思ってた。まさかこんな可愛い子だったなんて」
そう笑うと、あげはは『僕、もう中学生です。可愛いって年じゃありません』と、むくれた。
もう!そういうところが可愛いんだってば!
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