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ラスボス戦②
杉の一位さんが主犯だなんて信じられないオレの気持ちは置いてけぼりで、事態はどんどん進んでいった。
駒様の話では、オレを襲ったあの男が、父上と土井さんを襲った犯人と、同一人物だとわかったという。
”主犯”だろう杉の一位さんが拘束され、他に危険分子がないことも確認出来たので、もう誰も襲われる心配はない、安心してくださいと言い、駒様は、ゆいさんを連れて部屋を出て行った。
「杉の一位さんって、天戸井のところの一位さん、だよね?」
「ああ」
天戸井……そうだ!天戸井も事情を聞かれるみたいなこと、駒様が言ってた!
「天戸井も、疑われてるって……」
「杉の一位が拘束されたのだ。楽に嫌疑がかかるのは当然であろう」
皇は、オレにソファに座るのを促すよう、背中を軽く押した。
一緒にソファに座った皇は、オレの手を握った。
「護群がすでに拘束したということは、杉の一位が主犯という駒の話は、まず間違いない。楽に関しては、これから関与を調べるということであろう」
それって、天戸井も、杉の一位さんと一緒に事件を起こしていたって、疑われてるってこと?
天戸井のことをよく知ってるわけじゃないけど……B組の天戸井ファンが、天戸井のためにって勝手にしてたふっきーへの嫌がらせを、A組のみんなに謝罪したような奴だよ?
「天戸井は、卑怯なことするような奴じゃないと思う」
「……」
だけど……あの杉の一位さんだって、そんな人には見えなかった。どことなくうちのいちいさんに似て、にこやかで優し気で……。どうしてオレを……父上や、はーちゃんまで襲って……どうして……。
「杉の一位さんは、どうしてあんなこと……」
うなだれたオレの頭を、皇がふわりと抱きしめた。
「普通に考えれば、そなたを候補から降ろし、楽を余の奥にするため……で、あろうな」
お館様の嫁候補だった頃の母様を襲った犯人は、結局捕まらなかったと聞いたけど、母様以外の他の嫁候補の誰かだったんじゃないかって、噂されたって……。
次期当主の奥方候補は、家臣さんたちに安心感を与えるから、たくさんいればいるほどいいってことなのに、何人もいるからこそ、命を狙い合うような争いも、起こる?
だけど……。
候補同士でそんなこと……なんて思いながら、オレも……その気持ちがわからないわけじゃないんだ。
サクヤヒメ様のお膝元に行った時、皇の嫁になれないなら、このまま死んでしまいたい……なんて、こちらに戻るのを拒絶したのは……”候補様の命を失わせようとした”ってことに、なるんだよね。
皇の気持ちが他の誰かのものになるくらいなら……って、天戸井も、そう思った、とか?
「天戸井……皇のこと……」
天戸井の皇への気持ちが、そんなに強いものだって、考えたことはなかったかもしれない。
なんていうか……塩紅くんは、わかりやすく皇との距離をつめていたような気がするけど、天戸井はそんな感じじゃなかったから。
でもその実、すごく……思い詰めていたのかもしれない。
「ん?」
「天戸井……お前のこと……すごく……好き、なんだなって……」
天戸井が関与していなかったとしても、杉の一位さんがオレを襲ったのは、天戸井の気持ちを成就させるため……だよね、きっと。
オレと天戸井が逆の立場なら……オレの幸せが自分の幸せとか言ってくれるうちのいちいさんも、杉の一位さんと同じようなことを考えてくれちゃったかもしれない。
皇の腕をキュッと握ると、はぁ……と、皇はオレの頭の上で、大げさな溜息を吐いた。
「なに?」
「楽が余を?それはない」
「何でわかるんだよ!」
「楽は、余の家臣団を希望しておるだろうからだ」
「……は?」
皇は『はっきり聞いたわけではない。だが、余に嫁ぐ気があるかないか……話しておればわかろう。楽は己の能力を、余に認めさせようと必死であった』と、オレの頭をポンッと撫でると、ソファの背もたれにドカッと体を預けた。
「天戸井……お前の嫁になりたいわけじゃなかったってこと?」
「そのような好意を感じたことはない」
「そんなの、わかんないじゃん!」
「わかるであろう?」
確かに……衣織は、まぁ、あからさまだったから……好かれてるんだろうなって思ってたし、衣織以外にも、そう、なのかな?って、感じる人もいたけど!
でも皇って、そういうのめちゃくちゃ鈍そうなのに……。
「え……じゃあ、オレがお前のこと好きなのも、わかってたの?」
そう聞くと皇は、大きく目を見開いた。
「母様は、オレもお前も、お互いの気持ちに気付いてなかった……みたいなこと言ってたし……隠せてると思ってたのに。恥ずっ」
そう言うと、皇はまた大きくため息を吐いて、うなだれた。
「何だよ」
「そなたの前で余は、益々ぼんくらになっていくようで恐ろしい」
「は?」
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