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ラスボス戦⑦
「あ……」
遅いよっ!
思いっきり皇に文句を言ってやろうと思ったけど、二人の姿を見た途端、足の力が抜けて、オレはその場にへたり込んでしまった。
お館様は、オレと目が合うとにっこり笑って『次期当主の奥方候補である雨花様が、儀式の中止を命じた。これ以上、儀式を進めることは出来ない。ここは私が預かろう。みな下がって、納会の準備を始めてくれ』と、周りの家臣さんたちを、屋敷に戻るよう促した。
家臣さんたちは、お館様の言葉で、あっという間にいなくなり、お館様と大老様、皇とオレだけが、その場に残った。
「全く……雨花様が止めてくれなかったら、本当に腹を切るつもりだったのか?」
お館様はあきれたような顔でそう言うと、恐る恐る大老様の周りにぐるりと張られた縄をまたいで『占者様の結界を解いたの?すごいね、雨花様』と、驚いたような顔をした。
「もちろん、そのつもりでおりました」
お館様の問いかけに、そう答えた大老様は『雨花様を危険に晒したのは事実です。腹を切る覚悟がなければ、このようなことは致しません。止めろと命じられましたので止めたまでです』と言いながら、刀やら盃やらを片付け始めた。
「え?あの……」
切腹を許可したのって、お館様じゃないの?
え?なんなんですか?どういうこと?
「止めてくれて、ありがとう、雨花様」
お館様はそう言ってオレに笑いかけると、へたり込んでいたオレを立ち上がらせてくれて『すーの代も鎧鏡は安泰だな』と、皇の肩をパンパン叩いた。
皇は『はい』とか返事をしながら、嬉しそうな顔をしてるけど……。
「どういうことなんですかっ!」
オレは若干、ブチ切れていたと思う。めちゃくちゃ、めちゃくちゃ、めっちゃくちゃ!心配したのにっ!何これ?切腹騒ぎなんかなかったみたなこの雰囲気、何なの?!
「ここでは何だから、すーの部屋で話そうか?」
お館様ににっこりされると、怒っているオレのほうがおかしいのか?という気持ちになる。
オレは皇に背中を押されて、お館様と、白装束の大老様のあとを、口を尖らせながらついて行った。
大老様は、皇の部屋につくなり床に正座をし、三つ指をついてオレに頭を下げた。
「雨花様が、駄目候補という噂を払拭したかったのです」
「え?」
「その噂を流したのは、私です」
「え?あ、はい。それは聞いてます」
オレを守るために、オレが駄目候補っていう噂を流して、オレは皇に選ばれないとみんなに思われるようにしていたって……その話は、少し前に聞いている。
「雨花様が奥方様に選ばれると思われれば、一門内外問わず、狙われる可能性が出てきます。そこで、雨花様は奥方様には選ばれないだろうという噂を、広く撒きました」
「あ、はい」
「ですが……若の雨花様を望むお気持ちは、この先変わることはないだろうとわかり……雨花様の悪い噂を覆しておかねばならないと思っておりました」
「……はぁ」
この話、さっきの切腹騒ぎと関係あるの?
わけがわからないオレに大老様は『今ならその噂を覆せると思いました』と、頭を下げた。
「え?」
どゆこと?
「雨花様は、鎧鏡一族が許可した切腹の儀式を、大老である私に命じて止めさせたのです。明日には、雨花様はすごいお方だという噂が広まるでしょう」
「うえっ?!そのために、切腹しようとしてたってこと、ですか?」
「ええ」
「だって……オレ、止められなかったかもしれないのに!」
「もともと雨花様に止められるとは思っておりませんでした。雨花様を危険に晒した罪、腹を切って詫びるつもりでおりました。そうすることで、雨花様は私が腹を切って詫びるほどの人物だという噂が広まるという算段でございました。そうなれば、雨花様は駄目候補などという噂も消えるだろうと……」
何、それっ!
「そんな!オレのそんな噂を消すために、命をかけたっていうんですか!」
「私が蒔いた種です。私自身で刈り取らせていただきたかった。雨花様は、奥方様にふさわしくないなどという噂を放置したままでは、若が選んだお方だとしても、家臣の中に雨花様に対する悪感情が残ってしまう可能性があります。雨花様は駄目候補などではありません。雨花様のイメージを、本来あるべきものに修正し、家臣らに、奥方様は雨花様にと望んでもらいたかった。そうでなければ、真の祝福は得られません。雨花様の印象をあるべきものに戻せるのなら、私一人の命など、いくらでもかけるつもりでおりました」
深々と頭を下げた大老様に、オレは本当にムカついた。
オレのためなんて理由で、命をかけるなんて絶対に許さない!
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