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ラスボス戦⑧
「大老様は、自分がどれだけ重要な人間か自覚してください!オレ一人の印象を上げるために、命をかけるなんて!」
「いいえ。わかっていらっしゃらないのは雨花様です。雨花様には、私の命をかけるだけの価値がある。どのような手を使っても、雨花様には鎧鏡にお輿入れいただかねばなりません」
「鎧鏡に輿入れしたって、大老様がいなかったら鎧鏡は潰れますよ!」
「若が雨花様とご結婚出来なければ、若は鎧鏡を継がぬなどとおっしゃり、どのみち鎧鏡は潰れます」
オレと大老様が睨み合うと、お館様が間に入った。
「はいはい。潰れる潰れるって、二人とも人聞き悪いこと言わないよ?鎧鏡が潰れないように、二人ともここにいてくれればいいだけの話じゃないか。すーは、雨花様以外娶る気がない。私の大老は、お前以外じゃ務まらない。雨花様が怒るのも、わかるよ?命をかけられたほうは、たまったもんじゃないからね。でも、もう軽々しくかける命なんて大老にはないんだから、雨花様、大老を許してやってくれないかな?」
「え?」
「大老の命は、雨花様が預かったんだよね?」
お館様はそう言って、オレににっこり笑いかけた。
「あ、そうでした」
「大老の命は雨花様に預けるから、体は私のところに置いておいてもいいかな?」
『はい』と返事をしたオレと、おかしそうに笑ったお館様の前に、大老様は跪いて頭を下げた。
「全く……お前が腹なんか切っていたら、今日の納会は中止だったよ?そんなことになったら、また色々面倒でしょうが。主に朋ちゃんがさぁ。雨花様が止めてくれて本当に助かった。ありがとうね、雨花様」
「あ、いえ」
「さ、戻るぞ」
「はい」
「じゃあ、二人とも納会でね」
お館様は大老様を引き連れて、部屋を出て行った。
さっきまでの騒ぎが嘘みたいに、二人きりになった皇の部屋は、すごく静かだ。
「皇」
「ん?」
「お館様が、切腹の儀の許可を出したってこと、なんだよね?」
「ああ。大老は言い出したら聞かないゆえ一旦許可なさり、余かそなたに止めさせようと、駒を遣いに寄越したそうだ」
「はあ?!止めていいんだったら、先に連絡しておいてくれたら良かったのに!そしたらお前が止められたじゃん!」
「いや、あれで良かったのだ。そなたが大老を止めることで、全て丸くおさまった」
「……オレ……大老様のこと止められて、本当に良かったぁ」
めちゃくちゃ安心して、ソファにドサリと座り込んだ。
あの時、皇に反抗して、無理矢理しゃしゃり出て大老様を止められて本当に良かった!
大老様に候補として認められてるなんて思ったことがなかったけど、さっきのことで、オレはすでに大老様に認められていたのかなって、思えたし……。
そう話すと皇は『大老の命もそなたのものになったしな』と、おかしそうに笑った。
「笑いごとじゃないっつうの!」
「……雨花」
「ん?」
皇は、隣に座って、オレの頬に手を置いた。
「そなたは大老の命だけでなく、一門を助けたのだ。誠、そなたを誇りに思う」
皇はオレの頬を優しく撫でた。
皇……。
「雨花」
「ん?」
「一連の事件については、未だ動機は解明されておらぬと聞いた。だが、余の嫁候補を狙ったものと考えて間違いなかろう」
「……ん」
杉の一位さんは、自分が担当している天戸井を皇の嫁にすることで、実家の名前を上げたいって考えたってこと、なのかな。
だったら何で、嫁には選ばれないって言われてたオレを狙ったんだろう?
「余に嫁ぐのが……不安になってはおらぬか?」
そんな風に聞く皇のほうが、よっぽど不安そうな顔をしていると思った。
候補にならないって言われてたオレを、杉の一位さんが狙った理由はわからない。理由がわからないのは、怖い。だけど……。
「お前の嫁になるってことは、鎧鏡に命を預けることだって、それでいいのかって、聞いたのお前だろ。オレ、うんって言ったじゃん。何を今さら、そんなこと言ってんだよ」
怖いのなんか飛び越えるくらい、お前のこと、好きだから。
「何度狙われても……変われない」
「ん?」
「誰に反対されても、お前と一緒にいたいって気持ちは、変えられない。お前に……オレなんか嫌だって言われたら……離れるしか、ないけど」
「そのようなこと言うものか!」
皇はオレをギュウっと抱きしめた。
「だったら……さっきみたいなの、もう聞くな。オレは……お前の嫁になる覚悟をした。お前も、何があっても、オレのこと嫁にするって覚悟しろ」
そう言って、皇のおでこをパチンと叩くと、ドサッとソファに押し倒された。
「どわぁっ!」
皇の唇が近付いてきたので、オレはそれを寸でのところで止めた。
「何故止める?」
「……オレを嫁にする覚悟、したんだろうな?」
自分の唇を塞いでいるオレの手を掴むと、皇はふっと笑って『した』と言いながら、キスをした。
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