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ラスボス戦⑨
キスをしながら、皇の手がオレの寝間着の紐に伸びた時、ドンっという音を立てて、部屋のドアが開けられた。
「うおっ!」
びっくりしてドアのほうを見ると、ものすごいガッチリした体型の二人を引き連れた母様が、仁王立ちでそこにいた。
「え?」
オレは皇を押しのけて、ソファの横に直立不動になった。
「あ、ごめん。邪魔しちゃった?」
母様は仁王立ちのままそう言うと、皇は『何の騒ぎですか』と、母様に冷静に質問した。
だから!いや!お前のその殿様気質、今出さないで!母様にこんな現場を見られて、おま……ちょっ……オレが冷静ではいられないぃ!
「正式で神聖な儀式が止められたって聞いたんでね」
「は?」
皇は怪訝な顔をしたけど、母様が言う"止められた正式で神聖な儀式”って……もしかして、大老様の切腹の儀式の、こと?
「大老の切腹の儀式だよ」
「ああ、雨花が見事に止めました」
「間違いないね?」
母様にそう質問されて、オレが『はい』と、返事をするが早いか、母様は引き連れていたガッチリ家臣さんたち二人に『雨花様をひっとらえろ』と、命令した。
オレの両腕は、家臣さんたちに拘束された。
「な!何をなさるんですか!御台殿!」
皇がオレを取り返そうと伸ばした手を、母様がピシャリと叩いた。
「今朝の大老の切腹の儀式は、お館様が許可を出した正式なものだ。儀式を無理矢理止めたことを許したとなると、家臣に示しがつかない。それがいくら雨花様でもね。鎧鏡の儀式については、私が全てを仕切っている。雨花様への処分は、私が決める。雨花様を地下牢へ」
「儀式の中止については、許可を出したお館様も納得した上でのこと!何故雨花だけが罰を受けるのですか!」
オレを連れて行こうとする母様の前に、皇が立ちふさがった。
「うるさい。どけ」
その時、ドアの向こうから、駒様が『どうなさったんですか』と、顔を出した。だけど、駒様に返事もせず、母様と皇は睨み合ったままだ。
「出来ません!雨花は私の嫁!雨花への罰は、私が受けます!」
皇がそう言うと、母様は『お前はお前の罰を受けろ。お前の監督不行き届きだろ。処分は追って沙汰する。納会に出ずここで待て』と言って、皇の膝をコンっとつま先で軽く蹴った。
その途端、小さくうめいた皇が、ガクッと膝をついた。
「若様!」
部屋に入ってきた駒様に母様は『今日の納会に、千代と雨花様の参加は認めない。梓の丸にもそう伝えろ』と言って、オレを部屋から連れ出した。
「母様……オレ……」
あの時は必死で、とにかく大老様を止めなきゃってことしか考えてなかった。だけど……オレ、また大変なことをしでかしてたの?
こんな風に母様に怒られたことは、今までない。
オレ……母様にすごい迷惑をかけちゃったの?
オレを抱える二人の後ろから歩いている母様のほうを振り返ると、母様はニヤリと笑って、オレにウインクした。
「え……」
え?
え?何?
「キビキビ運べ!キビキビー!鎧鏡の儀式を止めるなんてことをやらかしたんだ!雨花様は地下牢にしばらく入ってもらわないとならない!千代も同罪だ!二人が今日の納会に出るのは許さない!」
母様は本丸を出るまで、そんなことを大声で言いながら、もっとゆっくり歩くように、ガッチリな二人にこっそり命じていた。
本丸で働く家臣さんたちは、母様を遠巻きに見ながら、お辞儀をしている。
母様にどんな意図があるのか、オレには全くわからないけど、さっきの様子だと、母様はとりあえずオレのことを全然怒ってない?みたい。
母様はオレに近付くと『青葉、泣いてるみたいな感じ出して』と、こっそり話しかけてきた。
えええええ……泣いてる感じって……ええええ?
オレは『うう』とか『ごめんなさい』とか言いながら、何が何だかわからないまま、拘束された状態で本丸を出た。
「ここが、私が一年入ってた地下牢だよ」
本丸を出て、サクヤヒメ様の祠と呼ばれる神社のほうに連れて来られたオレは、そこで合流した三の丸の一位さんと、母様と一緒に地下に入って行った。
母様が候補だった頃、金髪だった髪が黒くなるまでってことで、一年幽閉されていた地下牢だと、母様に案内されたそこは、地下牢というにはあまりにゴージャスな部屋だった。
「あの……か、あ、御台様?」
「ああ、母様でいいよ。うちの一位、全部知ってるから」
そう言われた三の丸の一位さんは、にっこり笑ってうなずいてくれた。
「あ、はい。じゃあ、あの、母様?」
「ん?」
『たまに掃除しておいて良かったな、この地下牢』なんて言いながら、母様は色々質問しようとしているオレに、ソファに座るよう促した。
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