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ラスボス戦⑪

オレはあの時……お見舞いに来てくれた天戸井と杉の一位さんに、あげはがぶつかりそうになって『うちの小姓がすいません』……とか、そんなことを言った、と、思う。 オレのあの一言が、杉の一位さんに疑惑を持たせる原因になっていたんだ。 違和感を持ってすぐ、オレを調べ始めた杉の一位さんは、オレが他の候補とは違う、特別な扱いを他にも受けていると知ることになる。 それでも、疑い始めた当初、杉の一位さんは、直臣衆の息子であるオレが嫁になることはまずないだろうと考えていたらしい。 それでも念のためにと、オレを実家に帰せばいいと考えた杉の一位さんは、オレが嫁になったら柴牧家が権力を持ち過ぎるだとか、誰が柴牧を継ぐのかなんていう噂を流したんだそうだ。 そんな噂が広まったら、もともと嫁にする気はないだろうオレのことを、皇はすぐに実家に帰すだろうと考えてのことだったらしい。 なのに、その噂について揉めたあの衆団会議後の一悶着で、その噂について完全否定され、なおかつ、はーちゃんの旦那さんが柴牧を継ぐことを、一門幹部連中に認めさせる結果を招いてしまった。 杉の一位さんは、どうにかオレを実家に帰せないものかと、次に父上を襲う計画を立てたという。 オレを柴牧の後継者にしたいと思っている人たちが、はーちゃんのお婿さんを後継者にするのに反対して、父上を襲ったという筋書きで……だ。 そうすれば、いくらなんでもオレを実家に帰すだろうと考えたんだそうだ。 あの襲撃事件で、父上を殺そうなんて考えは少しもなかったと、杉の一位さんは話したという。 でも、父上が襲われたあとも、オレが実家に帰されることはなかったわけで……。 そこまでしても、オレを実家に帰さないことで、オレが皇の嫁になる可能性があるかもしれないと、本格的に疑い始めた杉の一位さんは、警備が強固になった父上を襲うのを諦め、はーちゃんを襲う計画を立てた。 ふっきーが考えていたとおり、はーちゃんを結婚出来ない状態にすれば、おのずとオレが柴牧を継ぐしかなくなり、実家に帰すしかないだろうと考えたからだ。 でもそれも、いちいさんがはーちゃんにつけてくれていた護衛さんに阻止され、さらには柴牧家の警備が固くなったことで、それ以上、柴牧家の人間に近付くことが出来なり、杉の一位さんには、もうオレを直接どうにかするしかなくなったという。 オレを生かしたまま、嫁に選ばれないようにすればいいと考えた杉の一位さんは、オレを強姦させる作戦を立てたんだそうだ。 皇が不能と思っていた杉の一位さんは、皇が手を付ける前に、オレが他の男に強姦されれば、嫁に選ばれることはないと考えたという。 竜宮であの男に襲われた時、オレ、殺される!って思ったけど、杉の一位さんはオレを殺すつもりはなかったそうだ。オレはのちのち、直臣衆として鎧鏡一門を引っ張っていく立場になる人間だからって……。 オレがどこで受験勉強のための合宿をしているか、どうしても突き止められなかった杉の一位さんは、大老様が何日か置きに、食料なんかを運んでいるのを知って、オレのところに行っているのでは……と思い、リスクがあるのを承知で、大老様の操縦するヘリに、あの男を忍ばせたんだそうだ。 「結局、杉の一位が権力を欲したがための事件だったってことだよ」 「でも……奥方様に選ばれなかった屋敷の側仕えさんたちを、曲輪勤めから解雇するつもりはないって、皇、言ってたのに……」 「うん。そのつもりだし、そう言ってたんだけどね。杉の一位は、その言葉を信じられなかったのかもしれない」 お花、なんて差別されて育ったんだ。疑心暗鬼になるのも、無理はないのかもしれない。 「あ!今の話なら、天戸井は今回の事件と関係ないですよね?」 「ああ、まだ話は聞いてないから、何とも言えないけど」 「皇が言ってたんです。天戸井は嫁になりたいと思ってないって。皇の家臣団になりたいんだろうって」 「え?そうなの?」 「はい。それが本当なら、天戸井を皇の嫁にしたくて事件を起こした杉の一位さんとは、関係ないって証拠になりませんか?」 母様にそう言うと、母様は『お、そういうことになるね』と言いながらどこかに電話をかけて『楽様が千代の嫁になりたいか本当のところを探って。そうじゃないなら、楽様は無関係だ』と言って、電話を切った。 「鎧鏡一門の中にあった女系一族への差別について、恥ずかしながら、私も今回初めて知ったんだ。その差別が、杉の一位を犯行に走らせた一因だと思う。今回の事件、そんな差別をのさばらせておいた私たち一族にも原因があると思うんだ。ごめん、青葉。怖い思いをさせてしまって」 「いえっ!母様に謝ってもらうことじゃ……」 オレは、皇の嫁になりたいって思った時、鎧鏡に命を預ける覚悟をしたと、さっき皇に宣言したのと同じ話をした。 母様が『青葉は男前だね』と、皇みたいなことを言うから、オレはちょっと笑ってしまった。

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